日本の今後を担うリーダーやビジネスマンにとって、外交交渉の場やビジネスシーンで"交渉力"は不可欠なスキルとして注目度が上がっている。欧米だけでなく、中国、韓国など台頭するアジアと対峙する日本のリーダーにとって、どのような交渉力(思考法、コミュニケーション能力)が必要か。日本人とは立場、考え方の違う中国人、韓国人たちをどのようなプロセスで納得させればいいのか。
今後、国際社会の中で一層必要となってくる交渉力とはどのようなものか。双方が発展するWIN-WINの関係を作っていくためには、どのような思考法、プロセスを踏めばいいのか。創造的な選択肢を提案するための思考法を養うには?国際交渉の一線で活躍する慶応義塾大学法学部・田村次朗教授に聞いた。
<駆け引きの交渉をやめる>
多くの人が、交渉というと、"駆け引き"だと思っている。勝つか負けるか。得するか損するか。しかし、交渉とは、誰かが得して、誰かが損するゼロサムゲームではない。
「まず、交渉の場に立つ人は、"駆け引き"をしようという思いを捨てること」。日本の交渉学の発展に力を注いできた慶応義塾大学法学部の田村次朗教授は、「駆け引きをすると、多くぶん捕らないと損だと考えたり、だましたり、ゴリ押ししたりする。そうではない」と語る。
パイの大きさが変わらない場合、駆け引きのゼロサムゲームに陥ると、相手とのパイの奪い合いになってしまう。お互いの立場を主張し合うような交渉は、円滑に進めるのが、非常に難しい。お互いのメンツがぶつかり合うと、そこで議論が止まってしまう。「自分たちの"立場"をいくら議論しても、何も進まない。二分法の議論になってしまうと、言えることは限られてくる。アイディアも出ない。まず、そもそも、『何のためにこの交渉をしているのか』を考えていく。本当にほしいものは何なのかを洗い出せば、双方で、クリエイティブなアイディアが出てくるはず」と、立場に固執しすぎず、「共通利益」を作っていくことが重要だと述べる。
「ビジネスの交渉をする場合、パイ自体が膨らむという認識で臨むべき。WIN-WINのネゴシエーションをし、創造的な問題解決を行うというのが基本形」。
売り手と買い手の交渉の場合、「いくらでどのぐらいの量を、いつ売買するのか」だけではなく、売り手と買い手が商材についての議論を交わし、双方のアイディアを出し合ったことで、「新たな付加価値」が創造されるという形が理想的な交渉だ。
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<プロフィール>
田村 次朗(たむら じろう)
慶応義塾大学法学部教授。専攻は、経済法、国際経済法と交渉学。ハーバード・ロー・スクール修士課程在籍時に、交渉学を学ぶ。ジョージタウン大学客員教授などを経て、97年より、現職。ハーバード大学交渉学研究所では、インターナショナル・アカデミック・アドバイザー、ダボス会議(世界経済フォーラム)では「交渉と紛争解決」委員会の委員を務める。交渉学に関する著書に「交渉の戦略」(04年、ダイヤモンド社)など。
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