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「維新銀行 第二部 払暁」~第2章 クーデター計画(16)
経済小説
2012年11月 1日 07:00

<谷野頭取包囲網(16)>
 中国財務局には過去維新銀行に煮え湯を飲まされた苦い経験があった。
 
bi.jpg そのひとつは、絹田頭取から植木頭取に代わった5年後の1979年の秋、東南地区の支店長による定期証書偽造事件が発生したことだ。当時維新銀行の副頭取であった乾広太郎氏が国会に呼ばれるなど、金融史上稀に見る不祥事件となった。
 金融機関を監督する大蔵省銀行局内では、経営トップの責任を問う声が高かったが、維新銀行は地元選出で、当時大蔵政務次官であった保守党所属の森隆雅衆議院議員や地元選出の国会議員に働き掛け、大蔵省の人事介入を阻止するために躍起となった。
 そこで維新銀行は先手を打って人事異動を発令し、絹田代表取締役会長が代表取締役を返上し取締役相談役へ、また田口一夫筆頭専務が責任を取って退任し、植木頭取の続投を決めた。
 森政務次官と連携した維新銀行の首脳の素早い行動によって、大蔵省は維新銀行への天下りを断念させられた経緯があった。皮肉にもその時不祥事件起こした支店を統括する統括責任者は、谷本亮二取締役(当時)東南支店長であった。

 ふたつ目は、中国財務局が管内の金融機関、特に第二地銀に不良債権処理を急ぐよう指導していたときのことだ。第一地銀に比べて内部留保が薄く、収益力の弱い第二地銀は思い切った不良債権処理に踏み切れないでいた。そのため財務局は西部県の第二地銀である西都銀行に、増資による自己資本比率の改善と、不良債権処理を急ぐよう指導していた。
 西都銀行は、西部県内では維新銀行と競合関係にあったが、維新銀行は西都銀行の株式を200万株(1.23%)保有する大株主でもあった。西都銀行は非上場会社であり、その株式はグリーンシート銘柄で気配値はつくものの、市場流通性がなく魅力に乏しい株式であった。
 西都銀行は中国財務局の承認を受け、2000年2月、売り出価格1株380円(額面50円)、発行株式総数6,000万株、総額228億円にのぼる株主割当増資に踏み切った。

 中国財務局は西都銀行が増資計画を発表すると、大口株主である維新銀行の北野安芸本部長を呼び、西部県の金融秩序安定のために西都銀行の増資に応じるように協力を要請。北野は神妙な顔つきで、「前向きに検討します」と答えたが、頭取の谷本は首を縦に振らず、維新銀行は2億8,000万円の株主割当増資に応じなかった。西都銀行は失権した株式を何とか第三者割当により消化したが、瀬戸際の資本増強策となった。
 中国財務局は西部県内の金融秩序維持のためという大義名分が通用せず、維新銀行によって面目を潰された格好となった。「前向きに検討します」との言葉を翻した北野に対しても不信感を抱くようになっていった。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。

▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(1)


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