<事前準備~長期ビジョンと直近の目標>
「対立」を前提とすると、交渉ごとは前へ進まない。会話、コミュニケーションの中で、利害は何なのか、共通の利益は何なのかを探る。ビジネスにおける交渉の場合、まず買い手、売り手双方が、「双方のニーズ」を確認する。YESか、NOかではなく、何が相互利益を生み出すのかを考えていく。クレームのような事例でも、相手は何を言わんとしているのか、相手の利益はどこにあるのか、確認することは不可欠だ。
交渉学では、交渉に臨むまでの「事前の準備」を成功に持っていくにあたっての重要なキーポイントに挙げている。
田村教授の日本版交渉学では、事前準備の進め方は、次の5つのステップを踏む。
1.状況把握=相手の状況を探り、把握すること。(自分は交渉において何を成し遂げようとしているのか、相手は何を望んでいるのか。自分と相手のニーズを分析、把握する)。
2.ミッション=大きな目標は何か。究極の目標を探していく。(ビジネスで言えば、ある企業の長期的、継続的な発展など)
3.ターゲット=何を目指しているのか、目の前の目標。(売れる商品の開発など)
4.創造的な選択肢=クリエイティブなアイディア、選択肢をできるだけたくさん探すこと。(この段階で、幅のある議論をできる。この段階が優れていれば、交渉において、ほかの人や企業にはできないという独自性をアピールすることができる)
5.BATNA(Best Alternative to Negotiated Agreement)=合意できなかったときの代替案。交渉が決裂した時のもっともよい案(交渉を有利に持っていくための最後通告とも言える。交渉学では、このBATNAが合意形成するためのもっとも重要なカギを握る。BATNAを持っておくことで、不利な条件での交渉締結を避けることができる)
<プロフィール>
田村 次朗(たむら じろう)
慶応義塾大学法学部教授。専攻は、経済法、国際経済法と交渉学。ハーバード・ロー・スクール修士課程在籍時に、交渉学を学ぶ。ジョージタウン大学客員教授などを経て、97年より、現職。ハーバード大学交渉学研究所では、インターナショナル・アカデミック・アドバイザー、ダボス会議(世界経済フォーラム)では「交渉と紛争解決」委員会の委員を務める。交渉学に関する著書に「交渉の戦略」(04年、ダイヤモンド社)など。
※記事へのご意見はこちら