古川さんがペレットストーブを作ろうと決意したのは、地域の山が使われずに荒れていることに気づいたからだ。冬場に仕事で山に入って、倒木のせいで遭難しかけたという。だから安い海外産ペレットを使ったのでは意味がない。ちゃんと地域の木材が使われ、地域の活性化や雇用につながらなければ。オーストリアに実例がある。木質バイオマスに変わる前の化石燃料を利用していたとき、人口1万人の町の雇用者数はわずか9人だった。それが木質バイオマスに変わってから雇用者数は135人に増えた。中東に支払われていた燃料費が地域に循環したからだ。
では日本がエネルギーを自給したらどうなるだろうか。自給率が低いものは輸入を増やし、国内の経済活性化を妨げる。食料や木材の自給率が低いが、もっと低いのがエネルギー自給率だ。わずか4%しかない。そのために2008年、日本の化石燃料輸入額は24.5兆円に上った。それが国内で自給していたなら、一都道府県あたり毎年5,213億円もの資金が循環していたはずだ。考えてみればわかるとおり、それだけ各県に資金が回転したら雇用は増え、国内から資金が流出することもない。しかし原発事故が起きた2011年以降、日本は31年ぶりに貿易赤字に転落してしまった。今年は上半期だけでも2兆9,000億円もの赤字になってしまった。これを地域や国内で循環させるためには、国内のエネルギー自給を増やすことが急務だ。今ヨーロッパで赤字にあえぐ国々もまた、エネルギー自給率が低い国ばかりだ。木材は日本が国内でエネルギー自給していくための最大の資源だ。
古川さんのストーブは着火剤もペレットも福祉作業所で作ってもらっている。作業所に通う人たちは通常、ひと月数千円を得るだけだ。しかし古川さんが手伝ってもらっている作業所では、月7万円得られている。震災以降、「ペレットの値段」より「それは被災地支援や地域雇用に役立つのか」と聞かれることが多くなったそうだ。被災後の今が、社会を立て直すチャンスなのかもしれない。
<プロフィール>
田中 優 (たなか ゆう)
1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」「天然住宅バンク」理事長、「日本国際ボランティアセンター」 「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表を務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院、横浜市立大学の 非常勤講師。『シリーズいますぐ考えよう!未来につなぐ資源・環境・エネルギー①~③』(岩崎書店)、『原発に頼らない社会へ』( 武田ランダムハウス)など、著書多数。
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