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「維新銀行 第二部 払暁」~第2章 クーデター計画(17)
経済小説
2012年11月 2日 07:00

<谷野頭取包囲網(17)>
A-3.jpg 中国財務局は、谷本と親しい第五生命の山上正代が維新銀行を舞台に違法な保険勧誘をしていることを投書から掴んでいたし、その勧誘を積極的に支援しているのが沢谷専務以下組合出身の役員たちであることも耳に入っていた。
 しかし西部県の政財界や九州経済界にも顔が利く谷本が、維新銀行のトップの座に君臨していたため迂闊には踏み込めなかった。しかし谷本が相談役に退いたタイミングで発生した不祥事件を突破口に、維新銀行と山上との癒着の実態調査に乗り出す方針を固めた。 

 財務当局が維新銀行の不祥事件を厳しく追及する姿勢を示したのは、維新銀行の谷本相談役の責任を問うためであり、決して谷野頭取を責めるものではなかった。
 むしろ当局としては赤字決算に踏み切り、財務内容の健全化を積極的に進めている改革派の谷野頭取を高く評価しており、不祥事件の追及によって谷野の権力基盤は強化されるとの見方をしていた。当局が特に関心を寄せたのは、男子行員による定期証書偽造事件で10年以上もの間見抜けなかった維新銀行の管理態勢であった。その管理態勢の乱れの源は、谷本と山上の癒着による違法な保険勧誘が、維新銀行を舞台に平然と行われていることが原因だと突きつめたからであった。

 それを裏付けたのは、退職した維新銀行の元行員から送られてきた一通の投書であった。便箋十数枚に、びっしりと肉筆で書かれていた。

 便箋には、
 「自分は海峡市にある維新銀行の小規模なY支店の支店長を経て、東南地区のF支店の支店長として赴任しました」
 と経歴を述べた後、

 「赴任して1カ月経った頃、第五生命の山上正代外務員が挨拶にやって来ました。行内の噂では谷本頭取と非常に親しい人と聞いていたので、粗相のないように応対しその日は機嫌良く帰ってもらいました。すると翌日、地区統括の東南支店長の栗野専務から『昨日、山上さんがそっちに挨拶にいったらしいなぁ。保険の勧誘依頼があったと思うが、何社か紹介してあげたらどうか』と、山上外務員とは『つうかあの仲』であることを仄めかす電話がありました。

 その後暫くは何もなかったのですが、その2カ月後に山上外務員がアポイントなしで突然訪ねて来ました。丁度来客中で、女子行員から『第五生命の山上さんが来店しています』とのメモが入り、一瞬躊躇しましたが、大切な話の途中で切り上げることができず、山上外務員を30分以上待たすことになりました。客との面談を終え慌ててロビーに駆けつけましたが、山上外務員は窓口の女性に名刺を渡して既に帰っていました。この時、『あっ これはまずいことになった』と直感的に思いましたが、後の祭りでした。この山上外務員とのボタンの掛け違いが、私にとって大きな悲劇を生むことになりました」

 と、感情を押し殺した文章が綴られていた。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。

▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(1)


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