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「維新銀行 第二部 払暁」~第2章 クーデター計画(18)
経済小説
2012年11月 5日 10:00

<谷野頭取包囲網(18)>
 続けて、
 「悪い予感が現実のものになりました。第五生命の山上外務員が帰った日の夕方、栗野専務から電話がありました。『今日山上さんがわざわざそちらに訪問したのに、30分以上待たせても出てこなかったらしいな。本人はカンカンになって怒っていたぞ。ちゃんとした応対をしないと困るのは君だぞ』と、語気を強めて言われました。私は、『山上さんが来られた時、大切なお客さんと面談中でしたので、お待たせすることになりました。申し訳ございません』と言ったのですが、栗野専務は、『そんな言い訳を聞くために電話したのではない。あの人は特別な人なので、なぜすぐ中座してでも挨拶に行かなかったのか。お前は本当に要領が悪いなあ。もう少ししゃきっとせんか』と、ひどく叱られました。

buil_1.jpg しかし栗野専務から叱られたことの反動からか、私は山上に対して『アポイントもなしに来て、それで待たせたと栗野専務に告げ口をするなんて何様のつもりか』との気持ちを抑えきれなくなりました。また『中座して山上外務員に挨拶に行け』と言う栗野専務に対しても、こんなことを言う人が維新銀行の専務なのかと思うと、情けなくなり不信の念を強く抱くようになりました。

 大学を卒業し維新銀行のために30数年間、一生懸命頑張ったことが認められ、こうして支店長になったという自負が私にもありました。しかしそれが部外者の山上によって一気に打ちのめされたような寂寥感を味わいました」と、山上との関係がこじれ、その日を境に大きく人生が変わったことを示唆するように、文字の一つ一つにやり場のない切々とした思いが滲み出ていた。

 そして、
 「山上に嫌われることがどんな結果をもたらすかは、分かりすぎるほど分かっていましたが、どうすることもできず次第に塞ぎこむようになりました。医者に行くと鬱病と診断され、支店長の職を1年で解かれることになりました」
 と、記されていた。
 最後に、
 「公共性の高い維新銀行が、特定の保険外務員に肩入れすることや、外部の人間によって人事が左右されている実態を良く調査されて、是正するようにしてほしい」
 と、結ばれていた。

 山上に疎んじられ讒言を受けて更迭された支店長は累計すると数十人、いやそれ以上だとの噂が流れるほどであった。その多くは山上の保険勧誘に協力しなかった支店長達であったが、山上が懇意にしている取引先との貸出金や金利を巡るトラブルなどで支店長を左遷されるケースも見られるようになっていた。
 取締役でさえ山上の保険勧誘に協力しなかったために退任させられたと囁かれるほど、山上の維新銀行における影響力は絶大であった。そのため頭取の谷本と山上が懇意であることを知っている多くの支店長は何件かの保険を紹介して、山上に嫌われないように汲々としているのが実情であった。維新銀行内において第五生命の山上正代は、中国の三大悪女の一人、清朝末期の絶対的な支配者であった『西太后』と比喩されるほどの地位を占めていた。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。

▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(1)


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