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「維新銀行 第二部 払暁」~第2章 クーデター計画(19)
経済小説
2012年11月 6日 07:00

<谷野頭取包囲網(19)>
 維新銀行は、西部県と海峡一つ隔てた北九州市への進出を強化するため2000年6月、本部制を導入することを発表した。北九州市は1963年2月、門司市・小倉市・戸畑市・八幡市・若松市の5市が新設合併し、人口100万人を超える都市が誕生。2カ月後の4月1日に、三大都市圏以外で初めて政令指定都市の指定を受けた西日本最大の都市となった。
 商都小倉を中心として、日本を代表する新日鐵八幡製鉄所や住金小倉工場のある工業都市北九州市は、人口28万人の海峡市に本店を置く維新銀行にとって魅力的な市場であった。
 福岡銀行が北九州本部を設置すると、後に合併して西日本シティ銀行となる西日本銀行、福岡シティ銀行も追従して、3行が北九州本部を既に立ち上げており、3行の金融競争のなかに維新銀行が割り込む形となった。

srm.jpg 小倉支店長で九州地区担当の統括責任者であった石野裕士常務が九州本部長に昇格し、小倉支店長のポストに大阪支店長であった堀部正道が就いた。
 九州本部発足に伴い維新銀行は積極的な営業活動を展開していった。小倉支店長となった堀部は、10人の新規開拓専任者を駆使して他行肩代わりを推進。また北九州市内にある維新銀行12支店の取引先との異業種交流組織として「マグネット北九州」を新設。11月中旬に谷本頭取も出席し、リーガロイヤルホテル小倉で末吉興一北九州市長や高田賢一郎商工会議所会頭、恵谷英雄日銀北九州支店長など各界を代表する来賓や取引先企業約450社の会員が一同に会する設立総会を開催した。翌年3月9日(金)には小倉支店開設50周年の懇親会もリーガロイヤルホテルで開催した。小倉支店取引先250社を前に来賓として挨拶した末吉北九州市長は、「北九州市に本店を構える銀行がない。『北山銀行』でも『山北銀行』でもいいので、ぜひ立ち上げてほしい」と、リップサービスしたことが翌日の新聞取り上げられるほど、懇親会は成功裡に閉幕した。懇親会に主催者側の代表として出席していた谷本頭取も満面に笑みを湛えて会場を後にした。

 50周年の懇親会を無事終えた12日の午後、堀部に東南支店長の沢谷専務から電話がかかって来た。
 「堀部支店長、50周年は盛大だったらしいね。谷本頭取も満足しておられたよ」
 と、労いの言葉を掛けて来た。
 堀部は、
 「有難うございます。これから新しいスタートが始まります。今後ともご指導宜しくお願いします」
 と答えた。すると沢谷は、
 「堀部君、谷本頭取と山上さんが懇意なのは君も知っていると思うが、山上さんの目を通して谷本頭取の眼鏡に適う人物かどうか、役員候補に相応しいかどうかを見ているんだ。君も今の自分の立場を考えて、山上さんの印象を良くしていた方が良いよ。明日でも山上さんから電話があると思うので、そのつもりでね」
 と、あたかも堀部の将来を山上が握っているような話し振りであった。堀部は噂では聞いていたが、第五生命の山上正代の影響力が維新銀行において如何に強大であるかを肌で感じた。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。

▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(1)


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