私はこれまで、情報の中枢である北京のテレビチャンネルで加藤氏の姿を目にしたことはない。加藤氏が主に出演しているのは、香港フェニックスTVの政治系トーク番組だ。香港発の番組は大陸全体をカバーしており、北京でも視聴は可能だが、中国国内で主流の位置を占めているわけではない。加藤氏は日本で「情報統制の厳しい中国で取材活動を行なっている」というテイストで自身を紹介しているが、実際の言論活動は自由度の高い「香港」が中心だ。
たしかに加藤氏の語学力は優れている。中国での知名度も高い。しかし、著書はどれも「自叙伝」「自慢話」の延長線で、その内容にジャーナリズムとまで言えるほどの厚みがあるとは思えない。「大学時代にこういう中国人と触れ合って感銘を受けた」とか「この俳優に取材で会い、親交が続いている」など。「ウソ」ではないかもしれないが、加藤氏の言論は「1の話を100にする」傾向が見られる。日本の芸人がよく使う「話を盛(も)る」という話法だ。
中国でそういう類の人間は多い。北京大学や清華大学の卒業証明書を精巧に偽造する店も溢れている。日本はコミュニティが小さく、人の定住性が高いため、学歴経歴詐称は少ない(すぐバレるため)が、(移民も含め)人が流動する中華圏では詐称はよくある話。よくありすぎて、人が自分で語る経歴など信用していない。
加藤氏の語学能力の高さは、出演する香港のトーク番組を見れば一目瞭然だ。「東京大学を蹴って北京大学に来た」という虚言エピソードのみによって、成功を勝ち得たわけではないだろう。発音、声調も中国人のものに近い。ただ、中国で生活するうちに(あるいはその前から)中国人独特の「虚言癖」までも身に付いてしまい、トーク番組のなかで口走ってしまったのかもしれない。彼にとって不運なのは、ウソを口走ったインターネット番組が、動画サイトにしっかりと残されてしまっていることだ。
▼関連リンク
・証拠映像/中国インターネット番組『両会三人行』
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