2007年、北朝鮮とシリアが協力して、シリアの砂漠のなかに核関連と見られる施設をつくっていた。それに気づいたイスラエルのエフード・オルメルト首相が、ブッシュ大統領に電話、施設を爆破してほしいと頼んだ。しかし、ブッシュ大統領は"即答"しなかった。
業を煮やしたイスラエルは、シリア上空を縦断して戦闘機を飛ばし、施設を爆撃してしまう。しかし、シリアはイスラエル空軍の空爆に対し、何も対抗措置をとれなかった。すでにシリアのレーダー網がサイバー攻撃を受けており、レーダーには何も映らなかったのである。
「世界サイバー戦争」(リチャード・クラーク&ロバート・ネイク著)
11年12月、核問題をめぐって対立を深めるイランが、米国の最新鋭ステルス無人偵察機(UAV)RQ-170を撃墜したと発表した。あわてたアメリカ政府が、「撃墜したのであれば、残骸の画像なり映像を公開せよ」と迫った。するとイランは、ほぼ無傷のRQ-170の映像を公開した。実は、イランはミサイルで撃墜したのではなく、RQ-170の通信をハイジャックし、意図的にイラン領内に不時着させていた。偵察機はイラン上空で急速にスピードが落ち、自動システムが作動し、リモートコントロールしていた操縦士の指令を受けつけなくなり、イランの牧草地に不時着した。操縦士たちはなす術もなく、顔を見合わせるだけだった。
(ニューヨーク・タイムズ デビット・E・サンガー記者)
「サイバー・テロ」や「サイバー戦争」は、長い間、SF小説やSF映画のテーマであった。そこでは、最悪のシナリオが想定され、壊滅的な被害が起こるように描かれている。
現在、サイバー攻撃による直接の死者は、世界でもほとんど出ていない。しかし、少しずつ、最悪のシナリオに近づいて来ているように見えると著者は言う。
著者は、慶応大学大学院政策・メディア研究科教授兼同大学グローバルセキュリティ研究所副所長の国際政治学者である。
米国は10年5月に、米各軍におけるサイバー対策の取り組みをする米サイバー司令部(USCYBERCOM)を設立、11年7月14日には、米国防省が「サイバー空間作戦戦略」を発表した。これは、サイバー空間を、陸、海、空、宇宙に次ぐ「第5の作戦領域」として定義し、米国がサイバー攻撃を受けた場合にはミサイルなどの通常兵器による報復攻撃を行なうとしたものだ。一方、11年5月に、中国国防部は広東省広州軍区にサイバー軍を創設したと発表、同11年に、韓国では高麗大学にサイバー国防学科を創設している。
日本政府全体の情報セキュリティの司令塔は、溜池山王にあるNISC(内閣情報セキュリティセンター)である。実質的なオペレーションの責任者である副センター長は、NISCを支える主要4官庁(総務省、経済産業省、警察庁、防衛省)から順番に選ばれている。さらに、防衛省内の統合幕僚監部にサイバー企画調整官のポストが設置され、サイバー空間防衛隊(仮称)創設の動きが進んでいる。
「サイバー・テロ」、「サイバー戦争」は物理的な戦争と異なり、その定義、敵の特定 報復、防衛手段、国際社会での法対応、国際協力など明確になっていない要素が多い。
「誰がサイバー攻撃を仕掛けているのか?」で、いつも指を指されるのは中国とロシアである。しかし、専門家に言わせると、それさえ誰にでもわかる明確な証拠はいまだ示されたことがない。
<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。
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