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「維新銀行 第二部 払暁」~第2章 クーデター計画(22)
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2012年11月 9日 07:00

<谷野頭取包囲網(22)>
 山上の保険契約成約のお礼の手紙を受けて程ない期末の3月30日(金)の夕方、堀部に黒部人事部長から電話が入った。茂木次長に、4月2日午前9時に人事部に来るように、との呼び出しを伝える電話であった。それから20分もしないうちに池内貸付課長の呼び出しを伝える電話があった。小倉支店から2名が支店長昇格の呼び出しを受けた。

bgns_15.jpg 4月2日に谷本頭取より辞令を受けた茂木は海峡市北部の幹事店であるY支店の支店長、池内は西京市内の小型店舗N支店の支店長となった。
 もともと茂木は西部県内北東部にある小型店舗の支店長を務め、昇級して小倉支店の次長に配属されたのは、次に中規模店の支店長へ転出するための準備であった。堀部は茂木の人事考課表の評価をAランクとしており、中規模店への支店長昇格は時間の問題であった。
 しかし3月19日に保険契約を国井課長と共に成約させた茂木次長の、4月2日付でのY支店長への栄転は、あたかも山上の推薦による支店長昇格と映るタイミングの良さであった。一部の小倉支店の行員のなかには、この人事は保険契約の見返りではないかとの受け止め方をする者もいたが、むしろ堀部はこの人事の発令を見て、「山上が自分の影響力を誇示するために保険勧誘の成果を喧伝し、既定路線である茂木の支店長昇格を利用した」と、谷本頭取と親しい山上の底知れぬ周到さに脅威を感じざるを得なかった。

 堀部にも2001年5月中旬、経営管理部を管掌している松谷専務から、
 「おめでとう。そういえばわかると思うが、明日の午後1時に本店6階の役員室に必ず印鑑を持って来て下さい。出来るだけ人目につかないよう通用門から直通のエレベーターで来るようね」
 と、堀部に役員昇格を伝える電話が入った。
 当日堀部が役員室に松谷専務を訪ねると、用意された応接室に案内された。暫くすると松木隆司萩支店長と下田隆監査部長の二人が案内されて入って来た。
 松木と堀部の二人は、退職届と共に役員就任応諾書、監査部長の下田は常勤監査役就任応諾書、後は共通の退職金の振込指定書などの関係書類に署名するよう求められた。署名を終えると、松谷専務は、
 「18日の金曜日に決算発表と退任役員および新任役員を新聞発表する予定にしいるので、それまでは行内の誰にも話さないようにして下さい。6月26日に株主総会を予定しており、それまでは事件・事故に巻き込まれないよう維新銀行の役員としての自覚を持った行動をお願いします。それと帰りは他の部署に寄らず、まっすぐ帰って下さい」
 と注意を促した。三人は人目につかないよう一人ずつ応接室を出て行った。

 5月18日付で松木と堀部の取締役内定と下田の常勤監査役内定が予定通り、翌日の新聞に報じられた。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。

▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(1)


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