ネットアイビーニュース

NET-IB NEWSネットアイビーニュース

サイト内検索


カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

書評・レビュー

「原子炉安全委員会」より「倫理委員会」の提言を重視!~「脱原発を決めたドイツの挑戦」 熊谷徹著(角川SSC新書)
書評・レビュー
2012年11月12日 11:00

 「ドイツが今後11年間で全ての原発を廃止する!」というニュースは、日本のマスメディアでも報道された。しかし一回切りだ。その後は、全くと言ってよいほど報道されていない。それは言うまでもなく、大手のマスコミは「消費増税」賛成同様、「原発推進」に大きく舵を切ったからだ。
 残念ながら、我々は、福島原発事故以降の「原発」に関する日本及び世界の"本当"の動きを、新聞やテレビを通じては、知ることができない。

 著者は90年からドイツ・ミュンヘンに滞在、「エネルギー・環境問題」、「統一後のドイツの変化」「欧州の政治・経済統合」、「安全保障問題」等を中心に、取材、執筆を続けているフリー・ジャーナリストである。現在のドイツのエネルギー問題、「原発廃止」に関しても、光の部分と陰の部分を平衡感覚で描いている。我々が今後のエネルギー問題を考えていく際に参考となる1冊である。

 原発を前提に考える日本の経済団体は、原発を止めて「電力」が不足すると日本経済に大打撃を与えると国民を脅かす。しかし、日本の場合、ドイツ以上に、原発を止めても全く影響がないことは最近では広く知られるようになった。さらに興味のあることが本書には書かれている。

 1990年から2009年までの「電力」消費量はドイツが5%しか伸びていないのに対し、日本は29.7%も増えた。ところが、同時期のGNPの伸び率(経済成長率)を比較して見ると、逆転してドイツが28%伸びたのに対し、日本は16%しか伸びていないのである。原発を前提に、他の一切の努力をせず、「日本経済成長の為に!」などという勝手な論を展開していることがよくわかる。

 福島原発事故後すぐの、11年5月14日に、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、「原子炉安全委員会」(RSK)と「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」の二つの委員会に対し、同時に提言を求めた。そして、社会学者、哲学者、カトリッック教会幹部等17人で構成される倫理委員会の提言に従い、1万キロ離れている福島原発事故からわずか4カ月で全原子炉を停止させる日を22年に決めた。同委員会には原子力技術の専門家や電力会社の関係者は1人も含まれていない。

 今回「原発廃止」に大きく舵を切ったアンゲラ・メルケル首相は、社会主義時代の東ドイツで物理学の博士号を取り、科学アカデミーの理化学研究所で働いていた科学者だ。そのために、放射能物質についての豊富な知識があり、原子力を安全に使うことは充分可能と思っていた。その原子力擁護派であった彼女が変節したのは、科学者として、事故の深刻さ(原子力リスク)に強い衝撃を覚えたからだ。

 しかし、実は、もう1つ政治的な理由があった。福島原発後、16日後の3月27日に行われたドイツ南西部のバーデン・ヴュルテンベルク州議会選挙(電力の50%以上を原子力に依存)で原発推進派のCDUの首相が大敗、緑の党が圧勝したのだ。原子力を争点とした緑の党は、得票率が11.7%から24.2%の2倍に増え、SPDと連立、全国で始めて州首相の座を確保した。
 同じ日にラインラント・プファルツ州で行われた選挙でも、緑の党は得票率が前回の4.6%から3倍の15.4%に増えた。つまり、福島原発事故以降も、原発推進派であることを公言することは、ドイツの政治家にとって自殺行為となったのである。ドイツ国民の1票が彼女を動かしたのだ。

 今、日本「国民」は民主党に完全に裏切られ、政治家そのものに失望して、正直"白けている"と思う。しかし、次期総選挙で「原発」は大きな争点になる。ドイツの例に見られる様に、次期総選挙が我々、そして次世代の「いのち」を守る最後のチャンスになる。読者のその貴重な1票が確実に生きるのだ。選挙になると全候補者が「美しい日本」を呪文のように唱える。「原発」を残して、美しい日本云々を言うほど、滑稽な話はない。

<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。


※記事へのご意見はこちら

書評・レビュー一覧
書評・レビュー
2012年10月10日 07:00
書評・レビュー
2012年10月 9日 12:30
書評・レビュー
2012年7月 9日 14:31
NET-IB NEWS メールマガジン 登録・解除
純広告用レクタングル

2012年流通特集号
純広告VT
純広告VT
純広告VT

IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル