<再稼働の大義なくなる>
――東日本大震災から1年半が経過しました。過去の反省は大事ですが、次の将来進むべき道というのを選択する時期が来ていると思います。まず、原発をやめることは可能か不可能かをおうかがいします。
吉岡 可能です。一定の時間をかけさえすれば、それほど無理はしなくても実現できると思います。
――一定の時間とはどの程度の時間でしょうか。
吉岡 20年くらいです。ドイツも2000年に脱原発を決めて、2020年代前半にやめると決まりました。決めてから20年は、ひとつの目安になると思います。日本も今、脱原発を決めて2030年くらいまでに完全に実行するというのは、そんなに無理のある話しではないと思います。
――その間、たとえば今は多くの原発が止まっている状態ですが、止まった状態は一時的な、感情的な理由で止まっていると見るべきなのでしょうか。これは恒常的に止まる物ではないのでしょうか。
吉岡 基本的には、原状復帰を経産省などが急ぎ過ぎたために、国民の反発を買ったのだと思います。もっとソフトに、妥協的に出ていれば、再稼働絶対反対がこれほど膨れ上がることもなかったような気がします。経産省が事故後すぐにやろうとしたのは、すべての原発を復帰させるという方向でした。1基も犠牲にせずに、緊急安全対策で切り抜けようとしました。それが菅前首相に覆されるや否や、ストレステストをやって、クリアしたら次々に再稼働させるという、1基も止めるつもりがない、何も変えるつもりはないというようにふるまいました。それでは困るという反応が国民から出てきて、こう着状態になっているのだと思います。
――ただ、市民の考え方は過半数を大きく上回って原発ゼロを望んでいます。それは止めたまま、ゼロにしたいという意見が多いのではないかと思います。大飯原発再稼働においては、「電気が足りなくなる」という大義がありましたが、それも成り立たなくなりました。すると、再稼働に必要な理由は何だとお考えでしょう。
吉岡 まずは、原子力規制委員会が断固たる姿勢を示すということが必要だと思います。新しい基準をつくり、その大きな方向性を示して今の原発でその基準を満たさないのは稼働を許さないというような、それほど厳しいものにしなくてはなりません。
――厳しい審査項目を用意せねばならないのは、電力が不足するという大義が崩れたからだとの指摘ですね。それもせずに動かしているのは、詐欺のようなものです。止めることが正当に感じられます。
吉岡 30項目の改善項目を、原子力安全・保安院が示しました。それでは不十分だと言う人もいらっしゃいますが、私は項目を全部満たせば、一応の安全は確保されると考えております。まずは、30項目をすべてクリアすることが重要だと思います。ただ、もっと大きな格納容器をかぶせなくては爆発が防げないと指摘する声もあります。フィルター付きベントを用意したところで、爆発の危険が高まれば、使う間もなく格納容器が割れてしまう。それを防ぐためには、より大きな容器が必要だという声です。その場合は、何千億円もの投資が必要になりますね。
――それは事実上、「再稼働させずに廃炉にしろ」ということと同義ですね。電気を安価に安定的に供給してソフトランディングさせるためには、一定の時間と厳しい基準が用意されるべき、ということですね。
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<プロフィール>
吉岡 斉(よしおか・ひとし)
九州大学副学長。1953年富山市に生まれる。東京大学理学部卒業。現在、九州大学にて教鞭を振るいつつ「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(政府事故調)のメンバーとして活躍。近著「新版 原子力の社会史 その日本的展開」(朝日新聞出版)など。趣味は登山。
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