こうした一連の報道と関連しているのか定かではないが、アメリカ食品医薬品局(FDA=Food and Drug Administration)は2010年9月8日、SNBL USAに対し「WARNING LETTER」(WL。新日本科学によれば「改善指示書」)を発行した。これは各国にある"医薬品の安全性に関する前臨床試験の実施基準"(GLP=Good Laboratory Practice)の遵守状況に疑義がある場合に出されるもの。GLPは、70年代のアメリカの製薬・化学業界においてデータ改竄・誤認事件が相次いだことへの対策として制定された。
WLでは9項目の問題点が指摘されている。要約すれば、実験報告に関する不備、実験の管理に関する不備などが挙げられている。同社の有価証券報告書によれば、今年5月に9項目中7項目は再発防止のための十分な措置がとられており、残り2項目も過去に実施した前臨床試験の最終報告書の変更手続きを行ない、FDAに提出することで完了するとされている。
メインバンクである鹿児島銀行担当者はこれらの問題に対し、「たしかにWLが同社の業績に影響を与えたことは間違いないと思う。しかし、改善の方向に向かっているとも聞いている。動物虐待のことが話題になっているのは知らなかった」とコメント。
また別の問題として、実験のデータ改ざんを指摘する元社員もいる。「実験データの改ざん指示が怖くなり」同社を去ることになったという。マウスを使った実験で薬物投与を行なった際、実際よりも死んだ数を少なく報告するというものだ。これについては、調査報道サイト「HUNTER」でも報じられており、そうなれば市販薬の信頼性にも関わってくるだろう。
こうした一連の問題に対し、1986年に設立されたNPO法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)の担当者は、次のようにコメントしている。「すでにEU域内では化粧品の分野で動物実験が禁止され、2013年3月までに例外なき禁止の動きがあります。とくに霊長類を動物実験に用いている新日本科学さんは、そういう意味で時代に逆行していると思います。『動物実験をしない創薬こそが人間の医学進歩のためになる』ということが、以前より科学者、医者その他専門家から提言されています」。
以上の通り、同社を取り巻く経営環境は主力の前臨床事業を中心に悪化している。とくに同社が強みとしてきたサルによる動物実験は、今後のリスクとなる可能性が十分にある。他にも指摘されている問題点はあり、同社に財務内容やサルに関する質問状を送付したが、執筆時点で回答を得られていない。取材の可否すら返答がないというのは、東証一部上場企業としての責任を果たしていると言えるのだろうか――。
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<COMPANY INFORMATION>
■(株)新日本科学
代 表:永田 良一
所在地:鹿児島市宮之浦町2438(本店)
東京都中央区明石町8-1(本社)
設 立:1973年5月
資本金:53億9,105万円
売上高:(12/3連結)152億7,396万円
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