「ハナ肇とクレージーキャッツ」の桜井センリさんが亡くなった。孤独死だという。そういえば飯島愛、大原麗子、山口美江という女優やタレントも孤独死だった。人は誰でも死を迎えることを知ってはいても、人生の最期が誰にも看取られることなく逝くというのは、いかにも悲しい。しかしながら、孤独死から完全に逃れる術を誰も持つことはできない。孤独死の現状を報告してみる。
2008年7月、フジテレビ「報道2001」にゲストコメンテーターとして出演したときのこと、レギュラーコメンテーターのひとり、評論家の西部すすむさんが、「人間生まれたときも一人、死ぬときも一人」という内容のことを話された。「シリーズ老人漂流」のコーナーで、拙著『団地が死んでいく』をベースに、「集合住宅での孤独死」について話を進めていたときのことだった。
「西部さん、一人で死ぬのは勝手ですが、遺体の処理は大変なんですよ.」と話した。生放送終了後のことである。孤独死の場合、当然検視が入り、その後「特殊清掃業者」によって遺体は処理されることになる。一般の葬祭業者ではない。名前の通り、「特殊」なのである。日にちの過ぎた遺体は痛み、その処理は困難を極めるという。具体的な処理法には言及しないが、想像に難くないだろう。このことを話すと、西部さんは「これじゃ、1人で死ねないね」と苦笑された。
孤独死という言葉は、1995年の阪神淡路大震災のとき、仮設住宅内で起こった独居高齢者の自死や病死のことを、神戸新聞をはじめとするマスコミが「孤独死」と表記したことにはじまる。厚労省はかたくなに「孤立死」を譲らないが、「孤独死」と「孤立死」とでは意味が微妙に違う。
その孤独死を本格的に世間に知らしめたのは、千葉県松戸市にある常磐平団地である。1960年竣工。167棟、総戸数5,359、団地人口2万4,000人(現在1万9,000人)、築52年の超オールド団地である。2000年、その団地に孤独死が起きた。家賃が3カ月振り込まれなかったため、催促にきたUR(都市再生機構)の職員が白骨化した遺体を発見した。死後3年がたっていた。家賃が自動引き落としだったため、預金が底をつくまで誰も彼の死に気づかなかったのである。
自治会長だった中沢卓実さんは、団地の恥と決断して、その孤独死に積極的に対峙した。マスコミが注目したことで「孤独死」という言葉が一気に世間の耳目を集めた。加えて「孤独死は高齢者の専売特許」という概念をよそに、40代、50代の働き盛りの孤独死者も含まれていたことで、問題を多面化させた。
中沢さんは団地内に「松戸孤独死予防センター」を開設。高齢者を中心とした生活相談の場を提供。合わせて「いきいきサロン」という高齢者の居場所を設けた。利用料は1回100円。コーヒーなどの飲み物がふるまわれる。1年362日オープン。1日30人が訪れるという盛況ぶりだ。同時期に独居高齢者の見守りをスタートさせている。その後、NPO法人「孤独死ゼロ研究会」を立ち上げ、盤石の態勢を敷いた。
常盤平団地は家賃値上げ、建て替え反対運動を通して住民の意識を喚起し、絆を深めたという歴史的背景を持つ。これに「孤独死ゼロ作戦」を展開させたことで、UR賃貸の空室状況を一変させることになったのである。松戸市も「孤独死ゼロ作戦」に協力するという姿勢を見せたため、松戸市は福祉にやさしい町としてのイメージを一気にアップさせた。常盤平団地は空室ゼロで、周辺のUR賃貸住宅の苦戦をよそに、入居待ち状態が続いている。
興味深い事実がある。2年ほど前、東京都板橋区にある大規模団地の管理組合から、「孤独死に関して、管理組合としてどのように対応すればいいのか。良策があれば指摘願いたい」という依頼を受けた。いわゆるアドバイザ-として助言を求められたことがあった。
マンションは個人所有である。そこに孤独死が発生すると、持ち主はその事実を隠して販売しようと目論む。資産価値が下がると判断したためである。わたしは松戸市の常盤平団地の実情を説明し、「孤独死は隠さない」ことを提案した。
管理組合というのは基本的にマンション全体の管理(修理や営繕等の計画と実施。諸経費の徴収など)を行なうのが常である。部屋の売買に関して管理組合が直接関わることはない。
買い手は築年数、間取り、交通の便、セキュリティなどを考慮する。最近ではマンション全体の管理状況とともに、管理組合自体が、マンション全体としての「将来のあるべき姿」にまで踏み込んだ管理・運営の仕方を明示するマンションを選択する。マンションを"終の棲家"として考えざるを得ない住民が増えたためである。
そのなかに孤独死に対する管理組合としての取り組みが含まれている。「孤独死を放置しない管理組合」ということが結局は資産価値を高めていることに、管理組合(売り手)も買い手も気づきはじめたからだ。管理組合の総意として「孤独死を隠すのではなく、積極的に表に出して対応する」。これが「安心してマンションライフを楽しむトレンド」なのである。
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