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大さんのシニア・リポート~第6回 あなたは"孤独死予備軍"ですか?(後)
社会
2012年11月20日 07:00

 阪神・淡路大震災のとき、仮設住宅内で「クリニック希望」を開設し、住民の健康を心身共にバックアップしてきた医師の額田勲さんは、著書『孤独死』の中で、「"孤独死"とは、単なる『独居死』ではない。貧困の極みにある一人暮らしの慢性疾患罹病者(アルコール依存症も含めて)が、病苦によって就業不能に追いやられ、次いで失職により生活崩壊という悪性の生活サイクルに陥り、最終的には持病の悪化、もしくは新たな疾病の合併が引き金となって、死に追いやられるケースがあまりにも多い」「"孤独死"というのは、いかにも突然死のように世間から受け止められがちだが、実際は自殺など例外を除けば、慢性疾患によって長い期間苦しみ続けた帰結である場合が圧倒的である」とし、孤独死を「緩慢な自殺」と表現している。

 常磐平団地自治会長の中沢卓実さんも、「孤独死には"予備軍"というのが存在している。それは"ナイナイづくし"から発生する」と述べている。"ナイナイづくし"とは、「挨拶ができナイ」「ゴミ出しができナイ」「友達が作れナイ」「他人を思いやれナイ」人のことである。自ら閉じこもり、世間の風に当たろうとしない人たちのことを指す。思い当たる人は少なからずいるはずである。

 もっとも、どう生きるかは「個人の勝手」なのである。他人にとやかく言われる筋合いのものではないことも理解できる。ただし、"孤独死予備軍"は、結局人生の最期に至っても他人に迷惑をかけてこの世から消えるのである。それでいいのなら、もちろんそうすればいい。現実には、前出の西部さんの「これじゃ、一人で死ねないね」なのである。

 最近になって蜜月だった常磐平団地とUR(都市再生機構)との間がしっくりいっていない。理由は「孤独死の定義」。どういう状況を孤独死というのか、という定義付けである。内閣府は「誰にも看取られることなく、息を引き取り、その後、相当期間放置されるような孤立死」として期間の明示を避けた。自治会長の中沢さんは、再三にわたり厚労省に「孤独死の定義づけ」を迫ったものの、なしのつぶて状態だ。

 突然、団地の大家であるUR側が孤独死を「一週間を超えて発見されなかった事故」と定義付けたことで事態が急変した。理由は「発見時の死後経過にかかわらず、すべて孤独死とすることに異論がある」「家族で連絡を取ったり、クラブ活動に参加する基本サイクルがおおむね一週間」を論拠に挙げた。これに対し、新井康友・中部学院大講師(社会福祉学)は、「『社会的孤立をした果ての死』を孤独死と考える立場からは、発見時の死後経過で区切る意味はなく、一週間とする根拠もあいまい」(「東京新聞」11・12・28)と疑問を投げかける。URにとって、孤独死は「より多くの新規入居者募集」という思惑がある以上、迷惑な言葉なのだろう。「孤独死者の数をできるだけ少なく見積もりたい」「URの賃貸物件には孤独死は発生しにくい」が本音だろう。

mondai.jpg URの定義では、孤独死を「不浄な、できれば伏せておきたい死」と考えるマンションのオーナーや自治体の関係部署にとっては朗報だろう。「孤独死隠し」にも拍車がかかることが予想される。「孤独死ゼロ作戦」に真摯に取り組んでいる常磐平団地では、UR側に対して猛反発。公開質問状を提出して対抗した。しかし、納得できる返答が届いていない。UR側の定義は中沢さんたちの進める孤独死対策運動に逆行する。「孤独死を隠さない」「住民を孤独死から救う」ことで、UR常磐平団地の資産価値を高め、入居希望者が後を絶たない実情を、URは認識していないことになる。

 そういえば、わたしが住む団地の裏にそびえるUR賃貸住宅は空き室だらけだ。URは空き室対策として「家賃の減額」を実施しているものの、改善の兆しすら見あたらない。住民のコミュニティを考慮するうえで欠かせない「自治会の創設」に微妙な圧力をかける。「自治会を通して住民が注文をつける」という妄想が、未だにURのトップの頭を占めているのだろう。古い体質が、実はそこに住む住民を孤立化させ、やがて孤独死につながるという発想を持つことができないでいる。

 この団地にも"孤独死予備軍"と思われるSがいる。今春に愛妻が脳溢血で入院。意識の戻らぬ絶望的状態が続いている。Sは'絶望'を肴に朝から酒を飲み、2Fの通路から日がな一日'下界'を見つめている。その目はいつもうつろだ。最近、その姿を見かけなくなった。おそらく救急搬送されたのだろう。家族はこうして崩壊していく。あなたは"孤独死予備軍"ではありませんよね。

(つづく)
【大山 眞人】

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