すでに３・１１の震災から１年半以上の時間が経過したが、復旧から復興への様々な提言、あるいは「きずな」の大合唱はどこで、どのように実現されようとしているのか。むしろ、経済や社会全体の低迷のなか、誤解を恐れずに言えば、忘れ去る空気さえ感じてしまう。確かに、首相官邸周辺デモに見られる地殻変動を信じたいし、個人レベルでの反原発運動などは着実に継続されている。

　しかし、本来この未曾有の自然災害は、社会災害と表裏一体であり、今後の私たちの社会の、たぶん最後の転換期であり、その議論が白日の下で、喧々囂々と行なわれ、今の時点では着実にその第一歩が踏み出され、変化を実感している時期であったはずである。

＜1970年代が転換期だった？＞
　３・１１の東日本大震災後、多くの論評が展開されてきたが、そのなかに、日本の分岐点として1970年代に言及するものがある。
　同年代は、大阪万博で幕を開けた。日本で最初の国際博覧会「人類の進歩と調和」をテーマとして、国力と技術の可能性を誇示する形で開かれた。様々な形で「進歩」が表現され、岡本太郎の太陽の塔や、黒川紀章や菊竹清訓といった建築家が、「未来の姿」を提示し、まだ、国民も進歩の先にある未来を信じていた。
　72年には「日本列島改造論」がベストセラーとなり、７月には田中角栄が総理となった。まさに「開発」こそが、国是のように、新幹線や高速道路、架橋などのインフラ整備、地方の工業化の必要性が強調され、開発予定地では地価が高騰し、73年には、物価高が社会問題化していった。

　このような背景で、74年は、戦後初めてマイナスの経済成長率を記録し、75年に本格的赤字国債が発行された。さらに、年間出生数が200万人を割り込み、また出生率も2.0を下回り、人口減少傾向が確実なものとなった。74年には電源三法が成立し、原発をつくるごとに設置自治体へ公共施設整備などの名目で補助金が交付されていった。
　つまり、1970年代には、今の日本社会を根底から揺るがす様々な問題の兆しがあり、指標としても、その深刻さが暗示されていたにもかかわらず、その見通しを完全に誤ったのが1970年代ではなかったのか。

　私は、76年５月から６月上旬にかけて、カナダ、バンクーバーで開催された第１回の「国連人間居住会議：HABITAT」のフォーラムに参加している。
　そこでは実に多種多様なテーマが論じられた。たとえば、人間居住環境における人権／原住民の領土要求／適正技術／大都市形成と管理／水銀汚染／災害後の住宅／原子力問題／芸術と人間居住環境／身体的弱者のための居住環境の改善／廃棄物管理／最貧困問題など、76年の時点において、明らかに、別の豊かさにつながる住環境や社会のあり方について多くの「選択肢」が論じられていたのである。「現在」という社会は、自明の事ながら「過去」に行なった選択の集積で成り立っているし、捨て去った多くの選択肢が存在していた。

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