＜死後のデザイン（樹木葬）＞
　３・１１の大震災での死者、行方不明者は合わせて１万8,000人を超えている。私は、昨年の東日本大震災復興私案（朝日新聞）のなかで、この多くの犠牲者をいかに弔うか、その表現も極めて重要であると述べた。

　十数年前の話だが、友人の父親が亡くなった時に、彼は郊外の「自由設計」の墓地を購入した。私が水平の御影石の基盤に、名を刻んだガラス板を垂直に立てたシンプルな墓標をデザインした。霊園業者に見せると「すばらしいですね、いままで見た事がない！」といいつつ、馬脚をあらわした。最後に、やはり石を使うという条件があると言い出した。調べてみると、今や墓石は、大半が中国からの輸入である。その原価たるや知れたものであり、それが３段墓として、とてつもない値段がついている。少子化の時代に親族が未来永劫、墓を管理することは不可能である。かといって立体駐車場のような集約化した共同墓地や、ITを駆使した３Dの遺影では、あまりにもドライな弔い方だと思う。

　私が記憶しているロスアンジェルスの戦没者墓地は、広大な芝生広場のような墓地に墓石が水平に埋め込まれ一見すると芝生に隠れてほとんどわからない。ただ、ベテランズ・デー（復員軍人の日）には、数知れず小さな星条旗が墓石の前に翻る光景は、胸を打つものがある。亡くなった方々を丁重に弔い、その業績や人柄を偲び続ける、あるいは惨禍を繰り返さないと誓うことは、極めて重要だと思うが、時代にあわせて、その弔いの方法を考えてもよい時期、社会的状況にあると思う。

　樹木葬は、1990年代の終わりごろ、もともの岩手の住職が寺の裏山の樹木を墓標に見立てて始めたと聞いている。ある清掃工場のデザインに関わった際、本来、社会を支える「静脈」として極めて重要な施設が、なぜ「迷惑施設」と呼ばれるか、自主的に研究を行なったことがある。その時に、「墓地」について調べ、樹木葬を知った。それ以来、ことあるごとに「樹木葬」を紹介してきたが、震災後の東北とその復興の姿を思うに、樹木葬こそが、最も自然に共生する弔いに近いのではないかと思っている。

　少なくとも、樹木葬では、亡くなった方が生前愛した樹木が墓標として大きく育ち次世代と社会を見守り続ける。もし、樹木葬共同墓地が、地域の山際の耕作放棄地や荒廃地に作られ、広葉樹林として再生するならば、野生動物と共生し、農業を守り、かつ涵養林として環境保全にも役に立つ。本来、日本人の人生観のなかには、自然に寄り添い、自然とともにある姿が理想ではなかったか。

　被災地では、生態学の宮脇昭（横浜国大名誉教授）氏が被災地の瓦礫を現地で処分し、防塁を築き植樹する計画を実施されている。建築家安藤忠雄氏も、植樹を勧めている。もし、被災地に犠牲者を弔う大きな樹木葬の森ができて、復興の姿を見守るならば、なんとすばらしい事ではないだろうか。

　そして、もし叶うならば、私は大きな葉が重なり合い、緑のコントラストをつくり出す大きなホウノキの下で永眠したいと願っている。

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