中国側は強い姿勢で日本側を非難する一方で、冷静に日本の政治動向を見極めようとしていると治田氏は指摘する。
「野田さんが一方的に日本の領土だ、領土問題は存在しないといっても話し合いにはならないのです。中国政府も頑なな野田政権と話し合ってもしょうがない。次の政権との間で交渉のテーブルにつくことを考えていると思います。だからつっぱねているのではないでしょうか」
まさに治田氏のお話を伺って1週間後、野田首相は安倍晋三自民党総裁との党首討論で公約し、16日に衆議院を解散した。今回の選挙で3年余り続いた民主党政権は幕を閉じ、再び自民党を中心とした政権となることが予想されている。
「野田政権でまとまったとしても自民党政権でころりと変わるかもしれない。決まったことを覆される懸念がある。だから民主党政権では何も動かないと思います」
治田氏が指摘したように、中国をはじめ諸外国は民主党政権から次の政権へとその関心の対象をシフトしている。次の首相と目される安倍晋三氏の手腕に期待と不安が入り混じった思いを持つ経営者は少なくないだろう。外交もビジネスも大前提なのは"相手ありき"であることで共通する。問題は現実的な対応ができる政治家がいるかどうかである。
「今の政治家、民主党の野田さんにしても中国とのパイプがないのです。自民党にしても松村謙三氏や野中広務さんのような交渉ができる人が見当たりません」(治田氏)
かつて日本の政界には、自民党であれば石橋湛山、松村謙三、田川誠一、宇都宮徳馬といった大物の親中派政治家が存在した。近年では野中広務氏や加藤紘一氏が親中派の代表格だろう。自民党は、伝統的に親台湾派(中華民国)が多い。それもあって日本国内では中国に媚びると売国政治家としてすこぶる評判が悪いが、彼らも日本を代表して中国側と丁々発止の駆け引きを行なっていた(そうではない人もいるが...)。そのうえで中国側指導者との信頼関係を築いていた。今の日本の政界を見回すと信頼関係を築きながら、駆け引きができる政治家は極めて少ない。そのことが日中間の交流途絶につながっている。
いつまで交流途絶状態が続くかは不透明だが、治田氏は今後の見通しについて次のように語った。
「来年の3月まではなんとか持ちこたえられます。だから一日も早く次の政権へと交代して、停滞した状況を打開してほしいと待ち望んでいます」
停滞した日中関係を打開するのは解散が行なわれた以上、次の政権に託すほかないが、グローバル経済の中で日々刻々経済状況は変化していく。一日たりとて停滞は許されない。悠長なことをいっている余裕はないのだ。
治田氏には、弊社が2010年に発刊した『愛する福岡へ201人の提言』のなかでもショッピングだけではなく、観光地や食文化など福岡の多様な魅力を引き出して中国をはじめアジアとの交流の場にしたいとの思いをご提言いただいたが、現在の厳しい状況の中でもその実現を諦めてはいない。
日本と近隣諸国との間には尖閣問題以外にも領土をめぐる紛争を抱えている。韓国との竹島問題と旧ソ連との北方領土問題だ。いずれも政府レベルでの応酬は行なわれているが、両国との民間交流がすべてストップすることはなかった。今回の日中間の交流中断は、異常事態なのである。領土問題は国益に直結する問題でお互いに主張すべきは主張するとしても、民間交流までもが途絶するのは、日中国交正常化から40年の記念すべき年にあまりに不幸なことではないだろうか。次の政権をいずれの政党が担うにせよ、歴史的にも長く深くつきあってきた日中関係が悪化したままでよいと考える人はいないだろう。早急な事態の打開が待ち望まれている。
※記事へのご意見はこちら