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「維新銀行 第二部 払暁」~第2章 クーデター計画(37)
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2012年12月 3日 07:00

<谷野頭取包囲網(37)>
b_12.jpg 谷野頭取が厚生会病院を去ると、栗野は早速谷本相談役に電話をかけた。谷本の部屋には2本の電話が引かれており、通常は秘書室経由の一般電話を利用するが、この日栗野がかけた電話は、もう一本の「第五生命の山上正代が利用する専用ホットライン(直通)」であった。栗野がこの電話を利用したのは、秘書室経由で谷本相談役に電話をすれば、ひょっとして谷野に知られるのを恐れてのことであった。

 栗野は電話に出た谷本に、
「今、谷野頭取が帰りました。何度も慰留を受けましたが、最終的には会長を辞任することで話はついて、私の役員辞任届も受け取りました。それと北野常務と川中常務の留任の話も了解を取りました。一応相談役が描かれたスケジュール通りに運んでいます」と、伝えた。
 谷本は、
「5月の経営会議と取締役会議には、這いつくばってでも出てきてもらわなくてはいけないので、体調の管理をしっかりしておいて下さいよ。僕が谷野君を頭取にしたために、こんな目に遭わせることになって、本当に申し訳ないね」
 と、栗野に優しい声を掛けた。
 栗野は、
「沢谷専務には、私の方から今日の話をしようと思いますが、それで宜しいですか」
 と聞くと、谷本は、
「うん、そうしてもらおうか。その方が話の内容が良く伝わるし、北野常務と川中常務にも留任が決まったということを君の口から伝えてやったら随分喜ぶと思うよ」
 と言い、
「病気入院中の君に、谷野君罷免後の新頭取に古谷君を指名するように動いてもらったし、北野君と川中君の留任交渉をしてもらうなど、本当に迷惑をかけて済まんね」
 と、物静かな口調で礼を述べた。

 栗野の辞任と北野・川中両常務の留任が決まってから一週間後の2月下旬、中国財務局から谷野頭取に呼び出しがあった。
谷野頭取と経営管理部門担当の小林取締役の2名が中国財務局に出向くと、影山尚紀局長に理財部長の小石原良治、理財部金融課長の河本康孝の2名が同席していた。財務局トップを含め3人が出席する異様な雰囲気に谷野と小林は、
「何ごとがあったのか」
 と、一瞬戸惑いの表情を浮かべながらも襟を糺し、影山局長以下居並ぶ面々に会釈をして椅子に座った。

 影山局長が口を開いた。
「昨年8月末から9月初旬にかけて連続して2件の不祥事件が発生しており、中財金-第195号の命令書を出しています。これらに対する改善対応策の実施状況の報告を受けていますが、未だ制度面で不十分な面が多々見受けられ、早急に改善を図ることを求めます」と述べた。

 続けて、
「別件ですが、維新銀行で特定の保険会社の保険を銀行ぐるみで勧誘しているとの投書があり、内偵を進めた結果、違法な保険勧誘が行われているのではないかとの結論に達しました。本件は業務改善命令とはしませんが、維新銀行独自で保険勧誘の実態について厳正な調査を求めます。詳しい内容については河本金融課長が説明します」
 と話すと、室内はピーンと張り詰めた空気に包まれた。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。

▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(1)


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