<皆が協力し合える大学だからできたこと>
2012年、福岡の地に、小型だが大きな力を持った新型衛星が誕生した。学校法人福岡工業大学の田中研究室と河村研究室の合同プロジェクトが制作した小型衛星「FITSAT-1(にわか衛星)」だ。7月にH2Bロケットに乗って宇宙へ打ち上げられ、10月に日本の実験棟「きぼう」から無事宇宙空間へ向かって放出された。わずか10cm3の小型衛星は、4月頃まで、地球のうえを回り続ける。
このプロジェクトは、同大学情報工学部情報工学科、田中研究室の田中卓史教授が、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の『「きぼう」からの小型衛星放出実証ミッションに係る搭載小型衛星の募集』に応募したことから始まった。8件の応募中、田中教授の企画が採択された後は、大学からの支援もあり、約1年という短期間で完成に至った。仲間に支えられて成し遂げたという思いは強い。「こういう開発は、多方面の知識を必要とします。1人で行なえばキャパシティに限界を感じますね。今回はとくに、知能機械工学科の河村良行教授に加わってもらい、心強かったです。私が苦手な衛星の振動や熱、構造などについては、経験豊富な河村教授にきちんとカバーしていただきました」(田中教授)。
同大学では、定期的に研究室間の情報を共有し合えるような場を設けている。この場を通じて他研究室からの賛同を得ることができた。また、学生たちの存在も大きい。「うちの研究室の学生たちはコンピュータが専門ですが、アマチュア無線の免許を取得してもらいました。彼らにとっては想定外だったでしょうが、最近はこの方面にも面白みを感じているようです。他の研究室の学生たちにもいろいろと協力してもらいましたよ」(田中教授)。
大学という、シンクタンクが結集する場だからこそ、成し得たことだ。
<小型衛星の新たな利用価値が広がった>
FITSAT-1に託された主なミッションは、2つ。まず1つ目は、宇宙から撮影した地球の画像を地上に送信する実験。そして2つ目は、世界初の試みとなる遊び心満載のLED(発行ダイオード)を点滅させる実験に挑戦することだ。
まずは1つ目の画像送信技術について苦労話をうかがったところ、「小型衛星はUHF(430MHz)のアマチュア無線帯を使うことが多いのですが、今回画像送信に使ったのは、同じアマチュア無線でも5.8GHzのマイクロ波を使っています。パラボラアンテナのビームの幅が3度しかないので、その精度で動いているものを狙って受信するのが難しかったですね」とのこと。
さらに電波にも生じるドップラー効果も430MHz帯の10倍以上に変化するので、これをきちんと補正しながら受信するという制御技術も苦労したそうだ。高速通信を行なおうとすると信号の帯域が広がる。広帯域が使えるマイクロ波での高速通信の技術研究がテーマだっただけに、すべての面で問題点をクリアしていかねばならなかった。最初から難しいことに挑戦したのだという思いはあったが、おかげで、小型で軽量の衛星でも大型衛星と同じ精度の画像を地球に送ることができた。今まで小型衛星では切手サイズの画像しか送信できなかったが、FITSAT-1は、絵葉書サイズの画像を5~6秒で転送できる。
衛星打ち上げのうち、比重が高いのは打ち上げ時の燃料コストだ。従来の衛星は数百㎏以上の重さがあったが、軽量であればこれも抑えることができる。つまり従来と同じ予算で、何百個もの衛星を宇宙に放つことができるのだ。「これをきっかけに小型衛星の利用価値が高まります。上空にインターネットのルーターを配したのと同じようなかたちで利用することも可能ですね。たとえば、今回の東日本大震災時のような大災害で地上の通信網が分断してしまった場合でも、空を通じてコミュニケーションが取れるという、そんな活用の道が拓けるのではないかと思っています」(田中教授)。
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<UNIVERSITY INFORMATION>
■学校法人 福岡工業大学
学 長:下村 輝夫
所在地:福岡市東区和白東3-30-1
TEL:092-606-0607(広報課)
URL:http://www.fit.ac.jp/
<Profile>
田中 卓史(たなか・たくじ)
1944年福岡市生まれ。67年、九州大学工学部卒、72年、同工学研究科電子工学専攻博士後期課程修了。77年、国立国語研究所研究員、主任研究官。88年より、福岡工業大学情報工学部情報工学科教授。
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