＜谷野頭取包囲網（39）＞
河本金融課長が話し終えると小石原理財部長が、
「課長が話した内容を補足しますと、退職された維新銀行の元行員には中国財務局まで足を運んで頂き、事情をお聞きしました。
また最近になって現役の行員から匿名で、何通か投書が寄せられおり、その一通には、『谷野頭取が新しく就任されて、特定の保険会社、特に第五生命の保険勧誘への協力や保険料ローンの取り組みをしないようにとの指示』が全店にあり、維新銀行も最近になって少しずつ綱紀粛正が進み、健全な方向に舵を切っています」
と書かれていました。
別の投書には、『谷本頭取時代は、保険勧誘に協力しなかったために左遷された支店長の話や、取締役でさえ一介の保険外務員に過ぎない山上外務員に逆らえなかった話など、山上外務員が維新銀行の人事に深く介入し、強大な影響力を行使して維新銀行の人事を歪めていた実態』がこと細かに書かれていました。最後に谷野頭取に替わって良くなってきており、２度と後戻りすることがないよう良く監督して欲しいとの文面が綴られていました。
この様な投書があったことを前提として、
（１）当時の谷本頭取が山上正代外務員の保険勧誘にどのような影響力があったのか。
（２）山上外務員の保険勧誘を維新銀行の誰が主導して指示したのか。
（３）維新銀行のどのような行員が保険勧誘に関わったのか。
（４）どのような取引先にどのような保険勧誘したのか。保険勧誘先の経営状態及び保険の目的。
（５）ただ単なる保険紹介だけなのか、それとも行員が同伴しての勧誘だったのか。
（６）保険料ローンにおける第五生命の件数および金額。そのうち山上外務員が持ち込んだ件数と金額。
参考までに他の保険会社の保険料ローンの件数と残高。
（７）保険料ローンを取り組んだ取引先の経営状態およびその取り組みの目的
の主要な７項目について調査をして下さい」
と述べた。
続けて、
「メモはされなくても結構です。これは大まかな項目ですので、後ほどペーパーにしてお渡しします。なお、細かい点については課長や金融担当官と打ち合わせをして頂くことになります。期末を迎えお忙しいとは思いますが、全行員に対する自主的な聞きとり調査の実施を求めます」
と述べた。
谷野は、
「全行員を対象に調査を実施するとなるとかなり時間がかかると思います。提出の期限はいつまでにすれば宜しいでしょうか」
と神妙な面持ちで尋ねた。
すると今まで黙って聞いていた影山財務局長が、
「財務局トップの交代時期が恒例のように６月末となっていますので、できれば早い方が良いですが、御行の都合もあるでしょうから、６月末までとします」
と述べた。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」～第１章 谷野頭取交代劇への序曲（１）
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