ヤマダ電機(群馬県高崎市、山田昇会長)は、ベスト電器(福岡市、小野浩司社長) を12月13日付で子会社化した。ベストが実施した第三者割当増資を121億円で引き受け、持ち株比率が51%の筆頭株主となった。両社の売上高合計は2兆971億円。2位以下のビックカメラ=コジマ連合(売上高8883億円)、エディオン(同7,590億円)を大きく引き離す。今回の買収には唐突感が拭えなかったが、どうにか狙いが見えてきた。キーワードは「ネット通販」にありだ。
<異例、店舗譲渡が条件>
ヤマダによるベスト買収は異例な展開を辿る。公正取引委員会が同一グループのシェアが高くなる地域でヤマダかベストの店舗を第3者に譲渡することを、買収を認める条件にしたことだ。公取委が小売業界の企業再編で、店舗譲渡を条件としたのは初めて。
福岡、佐賀、熊本、鹿児島、高知、埼玉の各県は1店舗ずつ、長崎県は2店舗の譲渡を条件とした。家電量販業界で標準的な商圏とされる半径20キロ圏で買収によって有力な競争相手がいなくなるため「競争が実質的に制限される」と認定。来年6月末までに譲渡先が決まらない入札手続きを実施するとかなり強硬である。
驚いたのは、今回の買収が「競争を実質的に制限する」恐れがあるので、独占禁止法の問題を回避するため、ライバル会社に店舗を譲渡して競争を作り出せというロジック。一方の店舗を閉鎖するだけではダメなのだ。製造業の合併審査に使う独禁法の物差しを小売業にそのまま当てはめている。首を傾げざるを得ない。
<ネット通販を巡り対立>
公取委とヤマダの現状認識の違いが浮き彫りになったのは、インターネット通販業者に対してだった。ヤマダは、ネット通販業者も競争相手になっていると主張した。
公取委はウェブサイトに「株式会社ヤマダ電機による株式会社ベスト電器の株式取得計画に関する審査結果」についての文書を公表。ヤマダが「通販業者からの強い競争圧力が働いている」と主張していることに、かなりのページを割いて反論している。
家電量販店や通販業者に対するヒアリング調査を実施した結果から、「インターネット販売を中心とした通販事業者は、家電量販店に対し、ある程度の競争圧力となっている点は否定できないが、強い競争圧力になっているとまではいえないものと認められる」と結論づけた。
ネット通販業者を家電量販店の競争相手と認めると、ヤマダによるベストの買収によって「実質的に競争が制限される」という論理が破綻してしまうからだろうが、この現状認識にはウーンと唸った。
家電量販店が脅威に感じているのは、インターネット勢であることは間違いない。ネット通販は飛躍的に売上高を伸ばしてきた。しかも、店舗コストを要しないため、卸値よりも安く売る。それで家電量販店にはライバルとして、メーカーにとっては価格下落を推し進める存在として、脅威になっている。
しかし、公取委はネット業者に警告をしていない。目に見えにくいネットでの通販が、独禁法に反するかどうかの判断がむずかしいからだ。そのため、ネットはスルーされ、自分たちが独禁法の標的にされるという不満が、メーカーや家電量販店に強い。ヤマダによるベスト買収についての独禁法に基づく企業合同審査の場で、ネット通販の問題が火を吹いた。ネット通販に対する現状認識が、最大の対立点だったということだ。
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