<苦戦を強いられた第3極の健闘>
加えて、今回の総選挙では、政党の乱立や離合集散などで、「よくわからない」といった戸惑いの声が有権者から頻繁に寄せられた。その困惑は、戦後最低の投票率となった小選挙区59.32%、比例代表59.31%という数にも表れている。「前(09年衆院選)は、反自民で民主の候補に入れたが、今回は両党の顔ぶれが同じ。第3極は、『落下傘』の新人で、政策はよく聞こえても、その人に資質があるのか判断できない」(50代男性・会社員)。第3極の候補が浸透を図るには、あまりにも時間が足りなかった。
第3極の候補には、地元ではない選挙区で立候補した「落下傘」が少なくはなく、勢いのある自民党候補に対し、『地の利』のない苦戦を強いられた。土地勘がないため、効率的な街宣スケジュールが組めず、知らずに違う選挙区で街宣するといったことも。善戦できた陣営は、地元の地方議員や選挙経験者の協力を得られたところだ。そうした『人の利』もなく、石原・橋下人気という『天の利』のみで戦った維新陣営は軒並み苦戦。駆け込みで合流・結党した日本未来の党に至っては『天の利』もなかった。政党・政策を浸透させられず、脱原発の求心力を持てなかった。
それでも日本維新の会は54議席(選挙前11)、みんなの党は18議席(同8)と躍進。62議席から大きく数を減らした日本未来の党も8議席を獲得して踏みとどまった。「自爆」がなく、総選挙が先のばしとなり、第3極勢力に時間を与えていたら、民主党の壊滅さえあったのではないかと感じさせる結果だ。
現実的な目標は「比較第2党」。それにはターゲットを第3極勢力、とくに日本維新の会に定める必要がある。無関心層を掘り起こして投票率を上げ、既成政党の組織型選挙に対抗していくのが新興勢力の戦い方だ。第3極に計画的な選挙戦略をとらせず、さらには混乱の末の離合集散までねらう。敗将の「深謀」か、単なる「自爆」か、早々に野田首相は党代表辞任を表明したが、今後の民主党の行く末にその答えはある。
<投票にむなしさも...>
今回の総選挙では、新聞・テレビの報道に対する疑問の声が寄せられた。12月4日の公示から間もなくの世論調査で、「自民圧勝」「自民300議席超」などと喧伝されたことに対してである。結果的にそれは〝的中〟したものの、有権者が投票を行なう上で、政党の優劣は関係なく、そもそも政策や候補者の資質が問われるべきだ。報じる真意は理解し難く、優勢とされた陣営、劣勢とされた陣営の双方からも「情報操作」「票の誘導ではないか」といった批判の声があがり、有権者からは「調査方法を説明しているが、実際に現場を見たわけでなく、信用できない。マスコミが結果を決めたがっているように感じる」(60代女性・会社役員)と、疑問の声。
また、投開票当日の出口調査に基づいた「当選確実」報道にも疑問を抱く。とくに福岡県は報道が早く、午後8時の投票締切の直後、まだ票が数えられていないタイミングで、福岡6区を除く10小選挙区の「当選確実」が報じられた。出口調査は「事前の取材で優勢と見た候補者の地盤となっている地区の投票所へ行き、他候補の数を見るなどして判断する」(元報道関係者)という。
「開票もせずに結果がわかるのなら、投票すること自体に意味があるのか。もはや世論調査で決めてもいいように感じる」(30代男性・会社員)。テレビ局同士が威信と視聴率をかけて競い合い、確信を持って報じているとのことだが、冷ややかに見ている有権者も少なくはない。
しかしながら、民主党の「自爆(解散)」によって、年末のあわただしいなかで迎えた今回の総選挙とはいえ、2011年3月11日に東日本大震災が発生してから初の国政選挙にしてはあまりにも投票率が低すぎる。震災復興、エネルギー政策、デフレ、円高、領土問題、TPP、安全保障、社会保障、税制、行財政改革など、あらゆる政治課題を抱えるなか、国民の約4割が選挙に行かないという現状が最も深刻な問題なのかもしれない。政治家の責任も問われるが、我々有権者1人ひとりが政治に向き合ってチェックを行ない、政治の質を高めるのも1つの道である。
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