中洲の客引きが急増している。ピーク時は10メートルおきに声がかけられるほど、わんさかいる。最近は、年末で中洲の人通りが増えていて、ひと目ではわからないが、平日のヒマな時には、中洲大通りにいるのは客引きばかりという状況も。知る人ぞ知る中洲の顔は、「いいかげん、自分の顔ば覚えて欲しい。こんところ新入りの増えとるけん、わからんやろね」と、ため息。急増し、生存競争が激しくなった客引きは、人の入れ替わりが多く、手当たり次第に声をかけているといった感さえある。
増えているのは、店との契約関係がなく、店に客を連れて行くことで紹介料を得る「フリー」と呼ばれる客引きだ。店の人間が、直接的に客引きを行なった場合は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(風営法)に引っかかり、実質30万円ぐらいの罰金と店へは1カ月くらいの営業停止処分となる。しかし、「フリー」は、県の迷惑防止条例で「つきまとい行為」として禁じられているのみ。ちなみに罰金は30万円ほどだ。
昔は、客引きが案内する店と言えば、「ボッタクリ」の店が多かったが、今では、そんなこともないようだ。また、客引き自身が、割引料金を提示したり、客の好みなどを聞き出して、それに合う店を案内したりするため、客の方から声をかけ、客引きに案内を頼むような光景も珍しくなくなってしまった。良くも悪くも、生存競争の激化がサービスの向上につながっており、しつこく行き過ぎの客引き行為は見られなくなった。
22歳のKは、昼の仕事とは別に週3日ほど中洲に入っている。「始めた頃はゼロもあったけど、今じゃそこそこ。同業の仲間もいるし、けっこう楽しくやっているよ」と語るKは、昼の給料は家に入れて、夜の稼ぎは遊び代にしているという。急増する「フリー」のなかには、バイト感覚でやっている若者が多い。取り締まりを厳しくしても、次々と新入りが入ってくるので、「いたちごっこ」に陥る。
少数派だが、客引き一本で食っている〝プロ〟がいる。そのクラスになると、中洲事情に明るく、客の要望に丁寧に応じて付き合いのない店を含めて数軒提示。時には、自ら1,000~4,000円を負担し、割引して案内することも。「案内の時と店での料金が違うので探して文句を言ったら、『差額は私が出します』って。次からも頼むようになったよ」とは、30代会社員の中洲っ子。リピーターが増えている。
一方、店の方からは悲鳴があがっている。「フリー」の客引き自体を店がコントロールすることは〝基本的に〟できない。結局は、違法な客の奪い取り。客引きによって売上をあげている店もあれば、そのしわ寄せで客が減っている店がある。違法でなければ、多くの店が客引きを表に出すだろうが、そうなれば、通りで壮絶な客引き合戦が始まり、人通りを妨げるのみならず、店同士のトラブルに発展する可能性も高い。最悪、中洲自体から客の足が遠のいてしまう。だからこそ、客引きが取り締まりの対象になっているのだ。
来年4月に条例が改正され、取り締まりが厳しくなるとの話があり、待ち望む声をよく耳にするが、客引きに依存しない店と客の意識改革が必要かもしれない。
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
福岡県生まれ。雑誌編集業を経て2009年フリーに転身。危険をいとわず、体を張った取材で蓄積したデータをもとに、「歓楽街の安全・安心な歩き方」をサポートしてきた男の遊びコンサルタント。これまで国内・海外問わず、年間400人以上、10年間で4,000人の歓楽街関係者を『取材』。現在は、ホーム・タウンである中洲(福岡市博多区)にほぼ毎日出没している。
※記事へのご意見はこちら