<戦後2人目の再登板>
先の総選挙で自民党は3年3カ月ぶりに政権を奪還し、安倍新内閣が12月26日に発足した。安倍晋三氏は平成19年(2007)9月以来、5年3カ月ぶりの首相復帰で、首相の再登板は現憲法下では、吉田茂以来、戦後2人目となる。
安倍首相は前回、防衛庁の「省」昇格、教育基本法改正を成し遂げたが、健康上の理由で、首相在任1年で辞任した。閣僚の顔ぶれも「お友達内閣」と揶揄されたため、第2次安倍内閣では、実務型で各分野に精通した議員を多く閣僚に起用し、自らが命名した「危機突破内閣」でリベンジを図る。
<安倍カラーを封印>
安倍首相は来年夏の参議院選挙までは安倍カラーを封印して、デフレ脱却、経済再生(景気回復)などの経済政策に専念すると明言している。
自民党は政権公約に、経済政策とともに、憲法改正、自衛隊の国防軍構想、集団的自衛権の行使を可能にする、尖閣諸島への公務員常駐などの国家の主権を守る保守的政策をはっきりと打ち出して、選挙を戦った。
安倍カラーとは、これらの保守的政策そのものであり、経済政策に専念するがために安倍カラーを封印したことに対して、保守派の一部からは、すでに安倍首相に対する批判の声があがっている。
とくに中国との関係で言えば、安倍首相は「戦略的互恵関係」を目指すとしているが、選挙中の12月13日、中国国家海洋局所属の航空機(Y12)1機が、沖縄県・尖閣諸島周辺の日本領空を侵犯する行動に出た。その後も中国機が尖閣諸島周辺の領空に接近したため、航空自衛隊は那覇基地から戦闘機を緊急発進(スクランブル)させ、13日の領空侵犯以来、中国機へのスクランブルは5回を数えている。
それに対して、中国・楊潔篪外相は14日、習近平指導部の外交方針に関する論文を人民日報(電子版)に掲載し、日本政府による尖閣国有化に対して「断固として日本と闘争を行なう」と表明した。24日付の中国共産党機関紙「人民日報」傘下の国際情報紙「環球時報」も、「中国機が墜落するようなことがあれば、日本は必ず報復されるだろう」と題する社説を掲載し、日本に対する攻撃的な論調を展開している。
安倍首相が目指す中国との「戦略的互恵関係」が、こと尖閣諸島問題では通用しないことは、中国の繰り返される不法な行動や、覇権主義的な発言からも明らかなはずだ。
さらに安倍カラーを封印し、中国に対して尖閣諸島問題で毅然とした外交姿勢を示すことを躊躇すれば、一番困るのは現場を守る海上保安官と自衛官であることを安倍首相は認識するべきである。
<中国は妥協しない>
中国は今年に入ってから、尖閣諸島を譲歩できない国家利益である「核心的利益」と明言するなど、不当な領有権主張を一段と強めてきている。
日本は民主党政権下、尖閣諸島を国有化したものの、それ以降は尖閣諸島防衛の具体的な対策を実施してこなかった。
一方、同盟国である米国は、尖閣諸島が対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象となると明言している。米上下両院で合意した2013会計年度国防権限法案にも、米国による尖閣諸島の防衛義務が明記された。
米国が中国を牽制し、日本の立場を支持する姿勢を示しても、中国は尖閣諸島の強奪を絶対にあきらめないことは、南シナ海での中国の度重なる不法行動からも証明済みだ。
領土問題は当事者間(日中間)で解決するしか道はない。このまま安倍カラーを封印すれば、尖閣諸島に対する中国の攻勢が常態化するのは時間の問題だろう。
安倍新内閣は手遅れになる前に、尖閣諸島への公務員常駐を始めとする安倍カラーの政策を速やかに実行に移すべきである。
<プロフィール>
濱口 和久 (はまぐち かずひさ)
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、テイケイ株式会社常務取締役、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年3月に竹島に本籍を移す。今年3月31日付でテイケイ株式会社を退職し、日本防災士機構認証研修機関の株式会社防災士研修センター常務取締役に就任した。『思城居(おもしろい)』(東京コラボ)、『祖国を誇りに思う心』(ハーベスト出版)などの著書のほかに、安全保障、領土・領海問題、日本の城郭についての論文多数。5月31日に新刊「だれが日本の領土を守るのか?」(たちばな出版、現在第3版)が発売された。 公式HPはコチラ。
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