<「維新銀行 第二部 払暁」のあらすじ(2)>
維新銀行では、栗野会長の入院に続き、8月下旬から9月初旬にかけて「行員による顧客預金の着服」や「顧客情報の漏えい」などの不祥事が表面化。2件とも谷本頭取時代に発生したものが、谷野頭取になって表面化した不祥事であった。谷野頭取は陣頭に立ってその処理に追われることになり、維新銀行は綱紀粛正ムードに包まれることになった。2度の業務改善命令を受けており、新たに不祥事が発生すれば一部の店で業務停止命令が下されるかもしれない状況にあった。順風満帆に見えた谷野体制は暗雲が垂れこめる事態に遭遇することになった。
一方守旧派による「谷野頭取罷免」の動きも、2件の不祥事件で行内が綱紀粛正ムードに包まれたこともあり一時棚上げとなっていた。
しかし04年2月6日(金)を境に「谷野頭取罷免」の動きが急速に進むことになった。その日は海峡市の維新銀行本店で定例の経営会議と取締役会議が開催され、会議後に守旧派のメンバーが谷本相談役の部屋に集合。会長の栗野は病気療養のため欠席し、出席したのは沢谷専務、吉沢常務、北野常務、川中常務、松木取締役、大島取締役の6名であった。
集まったメンバーに対して谷本は、
「今月初め、谷野頭取が見舞いと称して栗野会長の病室に訪ねて来たそうだ。話のなかで、今年任期を迎える役員改選が話題となり、改選の谷野、北野、川中、梅原、古谷、大島、木下、小林の7名のうち、北野常務、川中常務の2名を退任させ、北野常務を太平洋産業の常勤監査役に、川中常務を関連会社の維新保険サービスの社長にと、具体的に転出先の名を挙げて打診したそうだ。栗野君は返事を保留したそうだが、このままでは押し切られるので、谷野君の罷免計画を早く実行に移して欲しいと、栗野君が慌てて連絡して来た」
と話した。谷本の話を聞いて専務の沢谷が、
「これから『TK計画』を具体的に進めたいと思います。ここに出席している皆さんもそれでいいですね」
と話すと、全員が大きく頷き、
「谷野頭取罷免」のクーデター計画を実行に移すことを決めた。
一方谷野は、栗野会長から提案のあった「栗野の辞任と北野・川中両常務の留任」を受け入れ応諾したが、それがクーデター計画の一環であるとは夢にも思わなかった。
栗野に応諾の返事をした一週間後の2月下旬、谷野は中国財務局から呼び出しを受けた。谷野は経営管理部門担当の小林取締役と二人で中国財務局に出向くと、河本金融課長は「2件の不祥事件とは別に、維新銀行で第五生命の山上外務員の保険勧誘を銀行ぐるみで支援しているとの投書があり、内偵を進めた結果、違法な保険勧誘が行われているのではないかとの結論に達しました」と述べ、維新銀行に「第五生命保険相互会社の保険契約に関する調査」が命じられた。また投書には山上の保険に積極的に協力した取締役として、「組合出身の沢谷専務、吉沢常務、北野常務、川中常務、松木取締役、大島取締役、原口取締役の7名と、谷本と同窓のS大卒の栗野会長と古谷取締役」の名前が挙がっていることも告げられた。
この9名こそが後に展開する「谷野頭取交代劇」を仕掛けた守旧派のメンバーそのものであり、「谷野頭取交代劇」は、当局にマークされた守旧派が生き残りを賭けて仕掛けた瀬戸際の戦いであった。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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