毒舌で知られた故、大宅壮一氏は「怪物」をこう定義した。怪物は単なる悪党ではない。むろん善人ではない。見る人によって、どっちともとれるようでなければならない。馬鹿では怪物になれないが、利口すぎてもいけない。複雑怪奇で、割りきることができないばかりでなく、分母も分子も大きくなければならない。行動半径が大きくて、振幅の広いことを必要とする。心のなかの奥の院は他人にはのぞかせないし、のぞいてもわからない。「要するに怪物とは"一筋縄でいかぬ"人間のことである」。この定義にぴったりはてはまる経営者が、ソフトバンクの孫正義社長(57)である。あっという間に、全米一の電波の周波数を手にいれる王手をかけた。
<秘密兵器はクリアワイヤ>
日本経済新聞電子版(12月18日付)はニューヨーク発の記事で「ソフトバンクが買収を決めた米携帯電話3位のスプリント・ネクステルは17日、(50%強)出資する米高速無線通信会社クリアワイヤの完全子会社化で合意したと発表した。スプリントが保有していない約49%の株式のすべてを総額22億ドル(約1,800億円)で買い取る」と、報じた。
スプリントがクリアワイヤを完全子会社したことで、スプリントを買収するソフトバンクは両社を傘下に収めることができる。日本国内ではさほど大きな話題にならなかったが、米携帯市場に進出する孫社長にとって、クリアワイヤが秘密兵器だった。
ソフトバンクは10月15日、201億ドル(約1兆7,500億円)を投じ、スプリントの70%を取得すると発表。買収の条件として、クリアワイヤの経営権確保をスプリントに求めていた。ソフトバンクの要求に応えて、スプリントはクリアワイヤに買収を提案。完全子会社にこぎつけたのである。
スプリントがクリアワイヤを完全子会社したことで、さっそく懸念する声があがった。
米携帯市場2位のAT&Tは17日に発表したプレスリリースのなかで、「ソフトバンクがスプリントを買収し、クリアワイヤの経営に対する支配力を手に入れることになると、日本の大手携帯通信事業者が米国の競合他社のいずれよりもはるかに多くの周波数帯をコントロールできることになる」として、米規制当局に対して慎重な審査を求めたという。
AT&Tのクレームは孫社長の目的を端的に示している。スプリント買収の狙いは、幅広い周波数帯を保有するクリアワイヤを傘下に入れて、全米一の周波数帯を手に入れることにあったということだ。いかにも怪物経営者らしいスケールが大きい構想ではないか。
米携帯市場を舞台に繰り広げられているM&A(合併・買収)は、周波数の争奪戦なのである。ソフトバンクが国内4位のイー・アクセスを買収したのは、ビルや山など障害物を回り込んで届くことからプラチナバンドと呼ばれる周波数を手に入れるためだった。携帯電話会社には周波数が生命線なのだ。
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