――ユニバーサルシティを目指す福岡市にとって、「あんしん電話事業」には期待するところも多いでしょうね。
荒牧 ハローワークの方は期待しているようですね。A型事業といえば、石鹸やクッキー、パンの製造業務が多く、本人の努力でビジネスを拡大させていけるような事業はありません。福岡市としては、障がい者雇用のために何かをやらなくてはいけないのはわかっている、でも、ノウハウがない、ということでしょう。協働事業は、こういうところをサポートしていけばいい、という具体的な施策が立てやすいので、市としてもやりやすいと思います。
いずれ、ノウハウは、同事業の雇用者にそっくり提供して、暖簾分けしたいのです。パターンさえできれば後はいろいろな事業が増えていくでしょう。
――優良業者紹介サービスについて、もう少し詳しく聞かせてください。
荒牧 高齢者の方は詐欺やぼったくり被害に遭いやすいですよね。そこで安心で利用できる企業に賛助会員になっていただいて、私どもを通して利用会員の方が安全な業者とお付き合いできるように情報を流します。しかし、高齢者の方も、単なる利用者ではないのですよ。会費を払うことによって、障がい者の自立を支え、優良な企業が増えていくきっかけ、つまりより良い社会を作る役割のひとつを担っているのですから。街頭募金などを行なってみるとわかりますが、募金する人たちの多くは高齢者です。世間に役立つことに投資したい、という気持ちを強く持っている世代です。その気持ちを、ぜひ、この事業を通して実現していただきたいですね。
――スタッフとして、事業に参加したいという方も出てくるのでは?
荒牧 宣伝、PRなどをアウトソーシングしていくから、スタッフはあまり要らないのです。
だから、スタッフはだいたいもう決まっていますよ。そのなかには信頼できる若者もいます。有能な若者はたくさんいます。彼らが連携していけば、また面白いビジネスも生まれるのではと期待もしているのです。だから、そういうスタッフには、どんどん独立開業してもらおうと思っているんですよ。何も若者だけに限ったことではありません。電話オペレーターとして雇用した障がい者の人もその対象です。なかには50歳近い人もいます。しかし有能ですよ。事業になれたら、それをスキルとして、独立していけばいいのです。そのためのサポートでしたら惜しみなくします。福岡市だけで障がい者は5~6万人いると言われています。それだけの数の人たちに、仕事が与えられない社会はおかしいです。
自分は社会に波紋を起こすつもりです。その波紋が広がって、大きくなって、そして社会が変わるといい。障がい者福祉といえば、ボランティアとしか思ってもらえない。しかし、ボランティアでは経済構造で成り立つ社会の仕組みは変わらないです。
というより、私は障がい者を特別扱いする気持ちはないですから、当然、この事業もビジネスとしか考えていません。だからこそ、機会も平等に与えます。雇用されたらその責務を全うしなくてはいけないのは、障がい者も一緒です。チャンスを作るから自分で掴めといっています。そして次は自分でチャンスを生めと。電話のオペレーターから入って、少しずつ力も財産も蓄えて、どんどんとやりたいことをやればいい。30万円ほしいのなら、それが実現するようなこと皆でやろう、そのための努力を自分でやろう、ということです。お金が欲しいけれど、自分は何もしない、じゃダメです。
――障がい者を雇用する企業の多くが、彼らが悩みを抱えたときのフォローを難しいと感じています。荒牧さんは、2007年に視覚障がい者を支援する任意団体を発足させて以来、視覚障がい者の社会参加と経済的自立を目的とし、さまざまな事業を展開させてこられました。そのノウハウがあるので、今回雇用する障がい者の方々の悩みにもきちんと対処していけるのでしょうね。
荒牧 従業員が悩みを抱えるのは、障がい者でなくても同じでしょう。健常者とか障がい者とか、そういう考えを持っているからおかしくなるのです。履歴書をみても、仕事をずっとしてきたと。しかし精神障がいのために離職せざるを得なかった人などが多いです。そんな人たちが働きやすい環境を提供したい、という思いはあります。
しかし、課題はあります。それは社会に出て働きたい、と思わない障がい者もいるということです。「あんしん電話事業」は、視覚障がい者にとって働きやすいものだと思いますが、応募がありません。今までも、別事業で視覚障がい者の雇用促進に尽力しました。しかし掘り起こしたいけど、掘り起こせないのが現状です。4月になって、事業を本格的にスタートさせれば、新聞やラジオを使ってどんどんとPRしていきますから、どんどんと挑戦して欲しい。チャンスは作ります。ぜひ自分のものにしてください、と言いたいですね。
――どうも、ありがとうございました。
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