連休明けの5月6日(木)の朝、「第五生命保険に関する調査」の概要が小林取締役から谷野頭取に届けられた。小林は、
「遅くなって済みません。決算関係の処理を急ぎましたので、手をつけるのが遅くなりました。現在は内容のチェックや報告書の作成などをしており、明日の定例取締役会議には間に合いませんが、調査結果の報告書は12日の水曜日までには、なんとか出来上がる予定です」
と言った。
提出された概要に目を通しながら谷野は、
「回答総数は2,830人だったんだね」
と言うと、小林は、
「そうです。期末ですから行員の退職などもあり、行員数が一番少ない時でした。調査を実施した3月15日現在の在席行員は2,846名ですので、回答率は99.4%となっています。未回答が16人いますが、そのほとんどは長期療養者ですから、ほぼ100%の回収率と思われます」
と説明した。
谷野は、
「うん そういうことになるが、問題は正直に記述したかどうかだね」
と呟いた。
小林は、
「そうなんです。その辺は自主申告ですから本人次第のところがありますが、保険の勧誘についての内容を記述した者が合計で304名います。その内訳として自らが成約内容を記入した者が196名、他の行員が関わったと思われる事例のみを記入した者が108名となっています」
と説明した。
すると谷野は、
「当行の男子行員の比率は全体の35%程度であり、ほぼ1,000人弱だよね。女子行員が保険を紹介することはないだろうから、196人が直接保険成約したと回答しており、男子行員の約2割が関与したことになるね。これはすごい数字だね」
と絶句するような声を出した。
暫く考え込んで、
「他の行員が関わったとする事例を記述している者が108名、別にいるわけよね。そうすると既に退職した人と、自ら成約内容の記入した者を外せば、申告していない者の実数が出ることになるね」
と言った。
小林が、
「そうなんです。196名は実名で自主申告しており間違いのない数字です。ただ実際は保険成約をしたにもかかわらず、申告していない者もいると思われます。そこで108名すべてが自主申告した196名の中にいれば、マックス196名が保険成約に関与したことになりますが、どうもそうではなかったです。108名のうち自主申告していた者が35名で、差し引きした73名のうち、既に退職した者が37人で、残り36名が自主申告していませんでした。その36名を加えると、232名が山上外務員の保険成約に協力したことになります。それとは別に他人から申告されず、自分も申告しなかった者もいるのではないかと思われます」
と言うと、谷野は、
「そうなんだよ。僕が先程言ったのはそのことなんだ。そうすると実数は250名近くなり、現役の男子行員の約25%が第五生命の山上女史の保険成約に手を染めていることになるね」
と、唇をかみしめるように言った。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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