12月10日、昨年４月に提起された博多織工業組合（福岡市博多区、寺嶋貞夫理事長）を原告、日本和装ホールディングス（株）（東京都千代田区、吉田重久社長）を被告とする、「博多帯」による「博多織」の商標権侵害などをめぐる裁判は、日本和装HDの勝訴という結果となった。ともに「博多」への熱き想い、「博多織」の伝統文化を失いたくないという気持ちを抱いているがゆえに、衝突してしまった。今回の裁判結果について、再び両者の胸中を語っていただいた。

　――博多織業界、というより呉服業界全体がジリ貧だと感じているのは私だけでは無いと思いますが、やはり業界自体がまだガラパゴス的な感じがします。危機感があるのか疑問です。

　吉田　危機感はないかもしれませんね。当社では、これまで会報誌『小袖』を７万件しか送っていませんでしたが、来年１月からは17万件に増やす予定です。本来46万件の個人情報をお預かりしていますが、これまでは限定感を出すために、自ら欲しいと名乗り出た方など一部の方にだけお送りしていました。ここにきて、やはり「お客様が中心」になっていかなければいけないと感じましたし、テレビCMもお客様を採用したものを始めました。
さらに、今回はテレビCMのギャラを3,333円払いました。うち333円は源泉所得税としてお預かりし、3,000円が出演料でした。これを受け取っていただいたお客様は、「ブリリアンツ持株会」というものに入っていただけます。当社は、数年前から「お客様にもっと近い存在になるため」と、大きく方向転換をしてきました。

　お客様と一緒に商品を盛り上げ、お客様の口を通じて商品や当社のことを伝えていただく、という意味で経費が増える覚悟で会報誌の送付先を17万件に増やすことにしました。テレビCMも広告代理店に丸投げするのではなく、自社制作にも乗り出しました。
　お客様とつくる持株会というのはあまり世の中に無いそうですし、当社の監事会社である野村證券さんも初めての試みだと言っていました。

　――吉田社長は「組合に入れてくれれば『博多帯』はやめる、という姿勢は一貫して変わっていませんね。

　吉田　なぜ産地組合がかたくなに「組合には入れない」とおっしゃっているのか、私にはわかりません。先方には「考え方の違いの問題だ」と言われました。しかし、このままいけば「博多織」の将来はないと私は思っています。それに、我々はこの件では一歩も引く気はありません。和解も考えておりません。余計なお世話と言われるかもしれませんが、私の目には組合の方々が「博多織が無くなっても良い」と考えているように見えて仕方ありません。

　ある人が私に、「やり方がまずかったのではないか。きちんと日参して、組合にあいさつすべきだったのでは」と言われました。たしかにそういう面もあったのかもしれませんが、私は納得できません。それに当時は、後藤が倒産して匠工芸の職人を助けるためにスピードが必要でした。今は資金量も増え、昔よりも良い糸を使って製品も良くなっています。
極論すれば、福岡の工場は更地にしてマンションを建てた方が商売としては良いのかもしれませんが、工場では若い職人さんも一生懸命働いてくれていますし、そういう人たちの芽を摘んでも仕方ありません。

　社名も自分たちで、今年３月に「日本和装ホールセラーズ」から「はかた匠工芸」に変えたくらい、"博多への想い"を彼らなりに持っています。今回の件は残念ですが、我々はいつでも話し合う気持ちはありますし、組合に入れてさえいただければ、いつでも「博多帯」はやめます。そして「博多織」発展のために全力を尽くし、日本全国に宣伝しようと考えています。
　我々はやたらめったに告知するのではなく、１回でも無料着付教室に来られた、本当に着物に興味がある方にしかご案内しません。そうした販売先を組合の方々も大いに利用されたら良いのに、と思います。組合の方々が生産したものを我々が全力で販売することが、伝統を守ることにつながると考えています。

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