5月7日(金)、海峡市は朝から晴天に恵まれ、穏やかな春の日差しが降り注いでいた。午前9時より維新銀行本店6階の役員会議室(円卓会議室)で経営会議が始まった。守旧派にとって待ちに待った「谷野頭取交代劇」の前哨戦の始まりの日であった。
経営会議には議長の谷野頭取、沢谷専務、石野専務、吉沢常務、北野常務、川中常務、梅原取締役、木下取締役、小林取締役、古谷取締役の計10名が出席。欠席は病気療養中の栗野会長一人であった。主要議題は第95期決算(平成15年4月1日~平成16年3月31日)の承認を求めるものであった。決算担当役員の小林取締役から過去3期の決算状況の推移について、以下の説明資料が提出された。
4月下旬に開催された臨時決算取締役会議で報告された内容に、貸倒引当金などを含む勘定科目の一部修正などはあったが大きな数字の変動はなかった。
昨年度は谷野頭取の英断により不良債権処理のため大幅な赤字を計上したが、今期は経常利益173億円、当期利益90億円と業績を急回復させて大幅な増収増益となったこともあり、決算関係の議案は出席者全員の賛成により承認された。
続けて議長の谷野が、
「中国財務局から現在業務改善命令が出されており、いつ解除されるかその目処は立っていません。その上に『第五生命保険に関する調査』を命じられており、現在取りまとめ中です。今日はペーパーとして皆さんにはお配りできる状況ではありませんが、私の手元には、かなりの数の行員が第五生命の保険成約に関与していたとの報告を受けています。いずれにせよ正式な調査報告書は来週の半ばまでには、皆さんのお手元にお送りする予定です」
と述べ、昨日小林取締役が提出した概要の中味については一切触れなかった。谷野の閉会宣言によって午前中に行われた経営会議は何ごともなく無事終了した。
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