5月7日(金)、午前中の経営会議に続き、午後1時より定例の取締役会議が開催された。
議長を務める栗野会長が欠席のため、代わりに議長となった谷野頭取は、
「今日出席しておられますのは、午前中の経営会議に出席しておられました沢谷専務、石野専務、吉沢常務、北野常務、川中常務、梅原取締役、木下取締役、小林取締役、古谷取締役と私の10人に、東部支店長の松木取締役、常盤支店長の堀部取締役、本店営業部長の大島取締役、福岡支店長の原口取締役の4名と大沢常監査役、下田常監査役の2名の16名です。栗野会長は病気療養中で欠席されております。また非常勤監査役の木村賢一郎明和生命社長も所用のため欠席されています。取締役15名のうち、14名が出席されていますので、取締役会の規程に基づき本会議は成立致します」
と述べ、開会を宣した。
主要な議案は午前中の経営会議に諮られた決算関係に関するものであった。担当の小林取締役が、
「第95期は前期の赤字決算から大幅な黒字に転換しました。お手元にお配りしている資料の通りとなっております。ご審議の程宜しくお願い致します」
と、決算内容の説明を終えた。
それを受けて議長の谷野は、
「何かご質問などはございませんか」
と、出席者に質疑を促したが特に質問はなく、
「それでは賛成の方、挙手をお願いします」
と可否を問うと、全員が賛成し決算関係の議案は承認可決された。
続いて議長の谷野は、
「午前中の経営会議で一部お話ししましたが、営業店の取締役が出席されていますので、『第五生命保険に関する調査』の概要について少し触れておきたいと思います」
と述べると、出席した役員の顔に緊張感が漲った。
谷野は落ち着いた声で、
「回答総数は2,830人で、回答率は99.4%でした。そのうち自らが成約内容を記入した者が196名、他の行員が関わったと思われる事例のみを記入した者が108名となっています。合計すると304名が保険成約に関与したか、もしくは関与をしたのを知っていると回答しています。この回答状況を見ますと、維新銀行ではかなり以前から組織的に第五生命の保険勧誘をしていたと思われます。現在取りまとめ中であり、来週半ばには詳しい調査結果の報告書が出来上がる予定ですので、皆さんのお手元にお届け致します。いずれ精査した報告書を中国財務局に提出する予定にしています」
と話した。
最後に谷野が、
「他にご意見ご質問がなければ、これで取締役会議を終わります」と、閉会を告げた。谷野はこの後に衝撃的な出来事が展開するとは夢にも思わず、静かに頭取室に引き上げて行った。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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