反原発活動を長年にわたり続けてきた田中優氏は、節電と自然エネルギーを活用した「原発に頼らない社会」を提言し、全国各地で精力的な講演活動を続けている。NET-IBでは、原発から政治・経済・社会問題など幅広いテーマで、同氏によるコラム「優さんコラム」を連載してきた。連載の最終回となる今回で田中氏は、自民党が大勝した衆院選について振り返り、選挙戦やデモ活動とは異なる、新しい仕組みを作り上げる反原発の取組みを提言した。
<民意を反映しない選挙結果>
12月16日、選挙結果が出た。驚くほどの自民党の大勝。インターネットやSNSは、落胆する人々の声で埋まった。ぼく自身は長らくテレビを持っていないし、最近では新聞も取らなくなった。だから一般の人たちがどんな情報を得ているのかよくわからない。どうやらネットやSNSの状況とは大きく違っていたようだ。
今回の投票率が著しく低かったのは、メディアで自民大勝が決定的として報道され、しかも対立軸の第三極として維新の会ばかりが報道され、投票が無意味と思わされたせいではないかと思う。
選択肢がなく、すでに決定的ならと大多数は選挙に行かず、わずかな票差が大きな議席数の差になる小選挙区制などの仕組みによって決定づけられたのだろう。比例で得票率27.66%(前回から0.93%増)の自民党が31.63%(前回は30.55%)の議席を取り、小選挙区では43.01%(前回より4.33%増)の得票で79%(前回は21.33%)の議席を取った。
実際に得票した数より、比例区で3.97%、小選挙区で35.99%も多くの議席を獲得した。自民党が増やした得票数は、得票数が大きく増えた小選挙区でも4.33%、それは選挙に行かなかった人たち40.96%の1割程度でしかない。大勝したと言われる自民党を比例区で選択したのは、有権者全体の16.33%でしかない。大半の人ががっかりしたと言うのもうなずける。全有権者の83.7%が自民党に投票していないのだから。「選挙に行っても無駄だよ」と思わせるキャンペーンが功を奏してしまった。こうして「投票箱の民主主義」は葬りさられた。
しかし運動には「タテ・ヨコ・ナナメ」の三つの方向性がある。自ら選挙に出る、政治家に影響を及ぼして法を作らせるなどの「タテ」方向の運動、そしてデモや署名活動などで多くの人たちに伝え、ムーブメントを起こす「ヨコ」方向の運動、これらが従来型の運動だった。しかしもうひとつある。それが「ナナメ」の運動だ。
<プロフィール>
田中 優 (たなか ゆう)
1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」「天然住宅バンク」理事長、「日本国際ボランティアセンター」 「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表を務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院、横浜市立大学の 非常勤講師。『シリーズいますぐ考えよう!未来につなぐ資源・環境・エネルギー①~③』(岩崎書店)、『原発に頼らない社会へ』( 武田ランダムハウス)など、著書多数。
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