<割高な液化ガスの価格>
永濱氏は、5つ目に環境規制の緩和、6つ目に電力・エネルギーの問題を挙げる。とりわけ、電力・エネルギーの部門での液化天然ガスの割高な輸入価格に着目している。「電力、エネルギー政策は、今後の日本にとって、もっとも重要なカギを握る。当面は火力発電中心の供給体制になるが、燃料のLNG(液化天然ガス)を、韓国などの2倍程度割高の価格で中東から買っている。アメリカと比べると、8倍の価格。液化して運ぶなどのコストを含めると価格差はそのまま反映されないが、液化天然ガスをもっと安く買うだけでも、交易損失を抑えることができる」。
東日本大震災が起こり、緊急に大量の液化天然ガスが必要となった。割高の価格で長期契約をしているのもマイナス要因だ。「安く売ってくれるところを探すなど、対策が必要。それだけでも、国益になる。コストが約3兆円と言われている。このコストを下げて、たとえば、半分の価格で買うことが可能ではないか。それだけでも、1兆5千億円の国益になる」と語る。
アメリカではシェールガス革命で天然ガスの価格が下がっているが、日本はその恩恵を受けていない状況にある。「アメリカは、経済連携を組んだところだけにしかシェールガスを売らないとも言っている。それを考えると、TPPには早めに参加した方が得策でしょう」と、エネルギー面から見た経済連携の重要性を説く。
<最大の要因は円高・デフレ>
日本経済復活への道のりに、解決するべき課題は多い。2007年以降、ねじれ国会となったのが要因で「決められない政治」に陥り、政治家がきちんと仕事をしない状況が続いた。「日本経済の低迷にもかかわらず、政策が十分に打たれていない。デフレ対策一つをとっても不十分。しかし、逆に考えれば、政策の余地があるからこそ、まだ日本経済に救いはある。人口動態的には、人口が減る厳しい状況ですが、まだ政策次第で伸びしろはある」と、永濱氏は前向きだ。
その中でも、日本経済の再浮上を妨げる最大の原因となっているのは、「円高・デフレ」である。
衆議院解散後、自民党・安倍晋三総裁の金融緩和策の発言が市場に影響を与え、円安方向に振れた。総選挙における自民党圧勝を受け円安傾向が若干進んだものの、この数年来の円高傾向は異常だった。「円の価値が上がっている。デフレも、円高も要因は同じ。世の中にあふれているものは価値が薄くなり、希少価値のあるものは価値が上がる」。通貨としての円の供給が、ドルやポンドに比べて、少ないからだ。
「円高・デフレの要因は、円の供給が足りないということに起因する。ドルやポンドはリーマンショック以降で3倍ほどに増やしている。円は4割程度増やしただけ。対策はやってはいるものの、徹底が足りない」。アメリカは、FRB(米連邦準備理事会)が国債を買うだけでなく、住宅ローン担保証券に資金を投入し、リスク証券も買っている。積極的に資金を市場に出して、景気を刺激する策を打ち、活性化を図ってきた。
日本では、金融緩和策を打ってはいるものの、効果が少なく、デフレ脱却はできていない。長引く円高にあえいできた企業は枚挙にいとまがない。「効果が薄い原因は2つある。(1)実施している規模が少ない。(2)デフレに陥る前に行なう緩和策と、デフレに陥ってから行なう緩和策とでは利き方が違う。デフレに陥る前に行なえば、株式市場にお金が流れ、株が上がるし、好循環になる。デフレに陥った後に行なっても、リスク市場にお金が流れにくい」と、永濱氏は分析する。
たとえるなら、沸騰した大量のお湯に、少量の水をさしても、効果はほとんどないということか。
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