飯塚市は、市内に立地する大学や研究機関等の知的資産を核とした産業インフラを最大限に活用し、地域経済の活性化や新産業の創出を目指す "e-ZUKAトライバレー構想"を掲げ、第1ステージでは産学官連携の強化やベンチャー企業の育成などに注力する取り組みを展開。第2ステージでは、市場創出につながる戦略プロジェクトの1つとして、2011年12月、飯塚病院、九州工業大学及び同市の3者が相互連携を強化し、医療分野の発展に資する「医工学連携」を推進する協定を締結した。その背景には、九州工業大学が培ってきた生命情報に関する技術力、全国平均を大きく上回る病院の病床数などがある。医工学連携を中心としたまちづくりに関して、飯塚市長の齊藤守史氏に話を伺った。
<健康で長生き、「健幸都市」実現目指す>
――以前、飯塚市は日本のエネルギー産業を支える炭鉱のまちとして栄えてきましたが、その後のエネルギー革命により石油がエネルギーの中心となったことから過疎化が進みました。そのなかで、医工学連携を積極的に進められていますが、これを始めるに至った経緯をお話しください。
齊藤 飯塚市には、九州工業大学情報工学部と近畿大学産業理工学部、さらに近畿大学九州短期大学を合わせて4,000人を超える学生が集積しています。こうした背景から、情報産業都市・学園都市としてのまちづくりを描いたのがe-ZUKAトライバレー構想です。その取り組みを進めるなかで、「医工学連携」というプロジェクトの機運が出てきたのです。
これまでは、若い人たちが起業しやすい地域としての政策を練ってきました。そのⅠつとして、2003年4月に、市内の大学、研究機関、産業支援機関と連携し、新規事業を起こそうと考えている方々に低額でオフィスを貸し出すことを目的としたインキュベート施設「e-ZUKAトライバレーセンター」を開設しました。実際に大学発ベンチャーの起業も多く、一定の成果は出てまいりました。
飯塚病院をはじめ、市立病院、済生会飯塚嘉穂病院、総合せき損センターなど各医療施設の合計病床数は約3,400床にのぼります。人口100人あたりのベッド数は全国平均で1.36ですが、飯塚市は2.58と全国平均を大きく上回っています。その関係から、医療従事者の割合も多く全従業者の15.2%を占めます。
飯塚市はこのような素地を持っていることから、大学と医療機関の連携による新たな産業の創出の可能性を模索するため、飯塚病院と九州工業大学が中心となって、懇談会やマッチングのための個別面談を実施していくなかで、取り組みの方向性が見えてきました。医工学連携の協力推進に関する協定は、研究交流として、医療現場のニーズと大学のシーズの共有だけでなく、医療メーカーと中小企業との共同研究のコーディネート、病院、大学双方による人材育成などを目的に締結されました。
端的に申し上げますと、「地域企業の事業領域拡大による新たな産業の創出、地域医療サービスの向上」が目的です。飯塚病院では医療現場が抱える課題の解決、九州工業大学は大学の技術・研究成果の実用化、飯塚市では新産業の創出、雇用拡大、地域経済活性化を目標に掲げています。医工学連携推進フォーラムや勉強会などの取り組みも充実してきています。
こうした医工学連携の取り組みのなかで、九州工業大学内に「バイオメディカルインフォマティクス研究開発センター」が2012年4月に開所されました。同センターは、情報工学を基軸にした研究開発を活発化させ、アジアにおけるトップレベルの教育研究拠点・産学連携拠点として期待されています。今後は、情報工学技術を医薬品の開発や診断・予防・治療に展開していく予定です。
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<プロフィール>
齊藤 守史(さいとう もりちか)
1948年10月生まれ。日本大学商学部経営学科卒。1971年、一番食品(株)入社。76年、9月同社専務取締役、96年4月、同社取締役副社長、98年4月、同社取締役社長を経て、10年4月、同社代表取締役会長に就任。06年4月、新市発足にともなって行なわれた飯塚市長選挙に出馬し初当選を果たし、現在2期目を務める。信条は「我以外皆我師也」。
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