＜本当の意味で、自分に向き合える清らかな里＞
　植樹は誰でも行なえるわけではない。園内には、全部で10項目ほどの条件が、白い看板に記載され掲げられている。まず人と動植物を愛し、慈しむ精神を持つ人であらねばならない。また、園内で行なわれる草取りなどの管理作業を含むイベントに積極的に参加し、植樹した桜の管理に責任を持って見守る人であらねばならない。園内の動植物を荒らすような行為は論外。そのほかの条件も含め、文言を読んでいると、求められているのは、自ら言葉を発することがない自然界に誠実に向き合えるかどうか、そして人として、人生にどれだけ真摯に己を投じることができるか、ということのように思えてくる。

　一般的には、お金さえ出せば後の管理は人任せ、またこれに妥協するという施設が多いなか、「桜の森」はそのような施設とは一線を引く。訪れるたびに自然のなかで自分と向き合える癒し空間だ。厳しい世の中に身を置く経営者などにとっては、心を清められる貴重な場所だろう。三遊亭歌之介氏のように、桜の森に啓発され、自ら「世界の桜を桜島に植えようプロジェクト」を立ち上げた著名人もいる。「自分も桜を広めてみよう、と思ってもらえるのは嬉しいですね」と寺岡社長は目を細める。大切な桜の森が、また違う場所で根を下ろしていくのであれば本望なのだ。

　心と心の付き合いをしている横綱白鵬も植樹に訪れた。８年前、「寺岡社長とはこれから長い付き合いになるでしょう。心遣い（祝儀）は一切しないでください。食事は甘えますから」と語った幕内時代の白鵬と寺岡社長の心の絆は、横綱になった今も変わらない。いずれ親方となって部屋を持ち、相撲界の頂点となるのであれば人生の師を持つべきだ、と、横綱と稲盛塾長を引き合わせ、盛和塾に紹介したのも寺岡社長だ。桜の森へ植樹を行なう横綱の表情は、寺岡社長への信頼感に溢れていた。

　さて、園内に建つてら岡直営店「清里（きよさと）絆舎」は、全国から訪れる人々をもてなすためにできた、木造二階建ての母屋と少人数向けの東屋からなる食事処である。舎名は、地名がもともと清里だったということ、また「清らかな里」という名がこの地に相応しい、ということで決まった。石碑に刻まれた舎名は稲盛塾長の揮毫によるものだ。もちろん一般客も利用できる。
　母屋は宴会もできる広さだ。また、酒樽でできた東屋はイギリスの田園地帯に住む妖精の住まいのような佇まいで、「きのこハウス」の愛称で親しまれている。数々の野鳥や虫の声に耳を澄ませながら、園内の幻想的な光景を眺めていると俗世を忘れる。「夜の帷（とばり）が下りる時間帯がとくに良いんです。晩年はこの地に住んで、桜の世話をしながら暮らしたいですね」と寺岡社長。

　四季折々、桜以外の自然も堪能できる。ともに土を耕した地元住民とは、今も酒を酌み交わしながら、この地の魅力について語り明かしているという。

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＜COMPANY INFORMATION＞
■（株）てら岡
代　表：寺岡　直彦
所在地：福岡市中央区渡辺通5-2-10
設　立：1981年８月
資本金：5,000万円
ＴＥＬ：092-714-4411
ＵＲＬ：http://www.teraokagroup.co.jp/

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