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「維新銀行 第三部 クーデター」~第1章 クーデター前夜(8)
経済小説
2013年1月11日 07:00

 谷野は、
「あなた達4人は専務、常務として維新銀行の経営陣の中枢を占めています。その一方で、営業を過たずに現場を指揮監督する立場でもあるわけですよ。そうであれば、皆さん達には担当している地区の支店長に対して、『今は業務改善命令を受けている状況であり、全行一丸となってこの危機を乗り越えていこう』と、率先垂範して指導していく大きな責任があります。
しかし今までの話を聞いていると、経営陣の一角としての自覚がないように聞こえます。今一度大局的な見地に立ってものを言うべきです」
 と述べたが、谷野の心の中に、谷本の指示によって操られている4人を哀れと思う反面、その裏で糸を引く谷本に対する怒りの感情を抑えることが出来なくなっていった。

tetyo.jpg 谷野の話が終わるや否や川中が即座に、
「営業本部長の立場から言いますと、多くの本部行員並びに営業店の行員から、谷野頭取の経営方針についていけないと不満の声が上がっています。先程から話が出ていますように、一つの例ですが、投資信託の販売を全行的に取り組んでも、『年寄りに対する過度な勧誘は慎めとか、リスクの説明責任を果たせとか、微に入り細に渡る指示』のため、営業店はやる気をなくして獲得額並びに役務収益の計画は大幅な未達になりました。
 また貸出にしても『期末の協力貸出の要請は極力控えるようにせよとか、預金も平残重視となり、月末の切手残、特にドレで預金残高を膨らませるな』とかの制約が多く、戸惑っているとの声を良く聞きます。その他にも、『急に○○の調査を△月△日までに報告のこと』などの雑仕事に追われ、前向きな仕事に取り組めないと悲鳴を上げています。
 谷本頭取の時代は、ある程度現場の支店長の裁量に任せられていましたが、谷野頭取になって『あれはするな。これもするな』と禁止令が多く、支店長は何をして良いのかわからなくなったとこぼしています。今の営業スタンスを続けると、来年3月期の収益状況は厳しいと思います。そうであれば、先程から皆さんが言われるように、この3月期決算の急回復を花道に、一期二年でスパッと退任された方が、谷野頭取にとっても維新銀行にとっても良いと思います」
 と、谷野の経営方針に反旗を翻した。

 谷野は、
「川中常務は営業本部長でしょう。あなたは、わたしの営業方針に納得して営業店に指示したのではないですか。それにもかかわらず営業店はやる気をなくしているとか、悲鳴を上げているとか言っていますが、今の話を聞いていると営業本部長らしからぬ無責任な発言ですよ。
 むしろあなたがしっかりした営業スタンスを示さないから現場が混乱しているのではないですか。営業の中枢として責任を負っているあなたが、私に責任転嫁する言い方は、『天に唾する』ようなものではないですか」
 と、諭すように声を返した。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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