<医療費削減を考えることは国民としての義務!>
――心筋梗塞の手前の症状でも、すでに高コレステロール血症や高血圧にはなっているのですか。
田川 そうです。高コレステロール血症や高血圧は、心筋梗塞の危険因子です。そこで、その次に考えたのが、心筋梗塞を薬で予防することから一歩進めて、その前の段階である生活習慣病――とくにメタボリックシンドローム(メタボ)を予防する方法はないのかと考えました。
メタボにならないためには、痩せること――外見だけでなく内臓脂肪を減らすことが必要です。残念ながら、現在、内臓脂肪を減らす有効な薬はありません。生活習慣で治していかなければならないのです。そうなると、一番大事になってくるのは「栄養と運動」です。ただし、運動を万人が定期的に行なうことはなかなか難しく、結果的に、「栄養学」にたどりつきました。
栄養に気をつけて総カロリーを減らすことも重要ですが、バランスが良い食生活をすることが何よりも重要です。つまり、栄養面からメタボを治し、予防することができることに気づきました。
――なるほど、しかし、先生のように論理立てて考え、進路を変更していく医師の方は多くはないと思います。何が、先生にその一線を越えさせましたか。
田川 日本の場合は、「国民皆保険制度」が充実しています。病気になれば、医者に行って保険を使った方が安く治療が受けられます。そのため、個人に関しては、病院に行って薬をもらった方が安く感じられます。食生活を改善・工夫していくことは煩わしく、サプリメントや健康食品を利用すると高くつきます。さらに、運動をするのもつらいものです。
しかし、国全体で考えれば、病院に行った方が安いのは保険を使っているからです。その保険ですが、国民が健康保険料と税金を負担しています。そして今、この「国民皆保険制度」は、財政破綻で危機に陥っているのです。個人個人にとっては、保険で薬をもらうのが一番安くつくと思いますが、その結果、借金地獄の日本でますます借金が増えていきます。
医師として、病院経営ということを考えれば、たくさん患者が来て、検査して、治療して、薬を出した方が儲かります。しかし、日本の将来、我々の子どもたちの未来が不安なのは、職業が医師であっても、それ以外の職業の方であっても共通です。日本が財政破綻で潰れたら、何にもならないでしょう。一個人で日本を立て直すことは無理な話ですが、少しでも医療費削減の方向に向かう手助けをするのは、国民としての義務とも言えます。
医療費を減らすということは、病気を減らすことです。私の専門分野で言えば、「メタボを減らす」「心筋梗塞を減らす」ことになります。
「栄養と運動」の結果、メタボが減れば、心筋梗塞も減ることになります。結果的に医療費削減につながります。少し大それた言い方ですが、国の財政にとっても良いことです。
厚生労働省も特定健診、特定保健指導をして、メタボの方を早めに治す政策を出しています。早期の治療を呼びかけ、心筋梗塞を減らし、結果的には医療費を削減しようしています。
しかしながら、なかなかうまく回っていないのが現状です。患者が減れば病院が儲からないことは、現実問題としてあります。
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<プロフィール>
田川 辰也氏
1989年九州大学医学部卒業、九州大学医学部循環器内科に入局、日本学術振興会特別研究員としてシドニー大学に留学(1997年7月~1999年12月)、北九州市立医療センター循環器科部長を経て2002年琉球大学医学部医学科臨床薬理講座助教授。2006年西南女学院大学保健福祉学部栄養学科教授に就任、現在に至る。
日本循環器学会認定循環器専門医、日本高血圧学会認定高血圧専門医(特別正会員、評議員)他所属学会多数。2000年第5回ファイザー循環器病研究助成「自律神経と高血圧」(優秀賞)、2004年第9回ファイザー循環器病研究助成「自律神経と高血圧」奨励賞他受賞多数。
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