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「維新銀行 第三部 クーデター」~第1章 クーデター前夜(10)
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2013年1月16日 07:00

 沢谷専務、吉沢常務、北野常務、川中常務の4人は、谷野の任期満了を口実に執拗に退任を迫ったが、谷野は頑として応じなかった。

 谷野は、
「何度も同じことを言いますが、僕が経営上で大きな判断ミスを犯して銀行に大きな損失を与えたとか、僕個人が犯罪に手を染めたと言うのであれば、あなた達から言われる前に自ら辞任します。しかし私は代表取締役としてこの2年間、維新銀行のために全力投球で努力してきたつもりです。不良債権の思い切った処理によって、この3月期には業績は急回復を果たしましたし、金融庁検査も無事乗り越えてきました。その間私が何か営業に関して大きな失敗をしたでしょうか。そんなことはないと思います。

 確かに昨年夏に2件の不祥事件が相次いで発覚し、金融庁による業務改善命令を受けて、銀行全体に暗いムードが漂ってはいますが、この事件の発端はいずれも谷本頭取時代のものですよ。だからと言って私は逃げているわけではありません。むしろ2度とこの様な不祥事を起こさないように綱紀粛正を徹底しているのです。ここにおられる沢谷専務、吉沢常務、北野常務、川中常務も同じ考えで取り組んでもらっていると思います。
 今日の経営会議と取締役会でも少し触れましたが、『第五生命のアンケート調査』では、あなた達4人も、山上女史の保険勧誘に深く関わっていたことが記述されています。むしろ維新銀行がモットーとする「健全なる積極経営」の精神を揺るがしているのはあなた達の方ではないのですか。

 それなのに、谷本相談役に対して礼を失しているとか、栗野会長を疎かにしているとか、不祥事件で行内が暗くなっているから人心を一新するためにとか、理由にならない口実で僕に退任を迫ることは、まったく正当性がなく、言いがかりをつけているとしか思えません。

 先程も川中常務は、自発的に退任すれば名誉も傷つかないが、そうでなければ反逆者のレッテルを貼られ、家族も海峡市で肩身の狭い思いをするとか、子々孫々まで累が及ぶとか脅迫とも取れる言葉を口にしました。代表取締役の経営上の責任の是非を問うのであればまだ許せますが、経営とは関係のない家族を巻き添えにするような発言は、公私混同も激しく断じて許すことができないことです。

 この様にあなた達が私にしつこく退任を迫って来るのは、『第五生命のアンケート調査』によって実態が明らかになるのを一番恐れている谷本相談役の指示で動いているのではないですか」

 と言ったが、その問いに誰一人反駁する者はいなかった。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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