2013年は日本をはじめ世界の主要国において、新たな指導者の下での国家再建作業がスタートすることになった。各国とも、強烈な政治的意思と創造的な経済政策で凌ぎを削る"ビッグレース"の幕開けである。目前のレースを有利に展開し、最終ゴールを目指すには、冷徹な情勢分析が欠かせない。その点、アメリカ政府が進める「未来から現在を振り返る」というアプローチは、大いに参考になるだろう。
アメリカの国家情報評議会が昨年末にまとめた報告書『グローバル・トレンド2030』によれば、日本を取り巻く環境のみならず、「世界全体が2020~2030年にかけて、類を見ない地政学的な大転換の時代に突入する」と分析されている。「2030年には覇権国家は存在しない。力と富の分散が起こり、個人や組織の非公式なネットワークが国家に取って代わる」。
これまで日米欧の3地域で世界経済の60%近くを生み出してきたのだが、2030年には50%を切るのは確実になった。いわゆる先進国のG7が抱える負債総額が1980年と比べると倍以上に膨れ上がり、今ではGDPの300%に相当するまで悪化している。これでは国家財政の破綻は時間の問題といえる。2013年がそうした地殻変動の始まりの年になるに違いない。
この報告書は新たな大統領の誕生に合わせて、アメリカの国防総省や国務省、CIAなど、国家の中枢を占める情報戦略のプロたちが国際情勢を徹底的に分析、評価し、4年に1度の頻度でホワイトハウスに提出するものである。今回の報告書には、世界20カ国の専門家の意見も織り込まれている。いわゆる「ブラック・スワン」現象についても、詳細な記述がある。たとえば、ユーロとEUの崩壊、新たな伝染病の蔓延、中国におけるバブル経済の終焉、核戦争の勃発、そしてサイバー犯罪の急増など。
我が国としても客観的な世界の現状と近未来を把握するうえで、大いに参考にすべきであろう。とくに、かつてない猛スピードで激変が予想される時代においては、個人、地域、企業、そして国家の規模の大小に係わらず、自らの命運をたしかなものにするためには世界のトレンドを押さえておくことは欠かせない任務となるからだ。
未来を柔軟に受け止め、最悪のシナリオを回避するよう、未来に働きかけるには、どうすればよいのか。危機と機会は隣り合わせ。要は、危機の到来を正確に把握し、チャンスに転換する能動的な姿勢が求められているのである。『グローバル・トレンド2030』には、そうした発想からの現状と未来分析が随所に散りばめられている。
主なポイントは、次のようなものである。第一に中国の台頭であり、「2020年代には世界最大の経済大国として浮揚し、アメリカを抜き去る」と断言されている。登り竜の中国と崖っぷちに追いやられているロシアの対比も興味深い。
では、アメリカにとって最も望ましいシナリオは何か。「中国と協力関係を構築し、両国にとって、また世界の人口の3分の2を占める都市部の生活者たちにとっても、喫緊の課題となる環境や医療、技術革新の分野で問題解決に一体的な取り組みのできるような信頼関係を築き上げることだ」という。実にプラグマティックな発想と言えるだろう。
また、アメリカは早晩、イラクやアフガニスタンから軍事的な撤退を余儀なくされることになる。その結果、いわゆる過激派集団による暴力やテロ行為は減少する。しかし、その一方で、サイバー空間を舞台にした新たな犯罪やテロ行動が急増する傾向にある。中国もアメリカも宇宙空間やサイバー空間における覇権を目指し、水面下ではライバル心を燃やしている。この領域での技術開発競争は軍事分野へも影響するわけで、互いに優秀な頭脳の奪い合いが激化するだろう。
アメリカの国家情報評議会の分析によれば、急成長を遂げるアジア太平洋地域の経済は軍事・国防予算や技術開発関連の投資金額を大幅に押し上げ、この分野における北アメリカやヨーロッパを合わせた予算を上回ることになる。とはいえ、この地域の最大の不安定要因は中国が経済発展を維持する上で欠かせない政治的な安定が保たれるかどうかにかかっている。加えて、「アラブの春」以降の中東や北アフリカでの政情不安も無視できない。
しかし、何といっても最大の懸念材料は東アジアを中心にして各地でナショナリズムの嵐が吹き荒れようとしていること。その引き金を引いているのは、中国に他ならない。新たに誕生した習近平体制の下、中国が目前の、そして近未来の内外の課題に対し、どのように有効な手立てを講じるものか、世界の注目を集めている。
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<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。
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