<世界に冠たる「日本食」の国で生活習慣病?>
――少し、見方を変えてお聞きします。日本の財政破綻危機を除いて、先生を予防医学や「栄養学」に導いたわけは他にありますか。
田川 そうですね。1つだけ思い当たることがあります。私は、1997年から約2年間、日本学術振興会特別研究員として、オーストラリアのシドニー大学に留学しました。そこでは大きな気づきがありました。
私が留学したオーストラリアの食生活は、ステーキなどの肉食が中心で、他にもフィッシュ&チップスという魚のフライとかポテトとかの揚げ物をよく食べます。その結果、オーストラリアでは肥満の方がとても多いのです。
オーストラリアの食事と比べると日本の食文化は素晴らしいです。「日本食」は世界に冠たる素晴らしい食事ということです。オーストラリアでは日本料理店へも行きましたが、残念ながら、あまり美味しくありませんでした。風土が影響しているのかも知れません。
日本で食べる「日本食」は見た目にも美しく、味も香りも良く、低カロリーで栄養のバランスもとれた最高な食事と気づきました。素晴らしい「日本食」を持ちながら、いわゆる「食の欧米化」で、脂の摂取量が増え、カロリーが増え、生活習慣病であるメタボの患者が増え、心筋梗塞になっていくことはとてもおかしなことです。
今「日本食」は世界中で注目され、「日本食」そのものを世界文化遺産にしようとする動きさえあります。見た目がよく、美味しいだけでなく、栄養学的に優れています。
食事を美味しく、楽しく食べ、なおかつ肥満を解消できるのです。これを生かさなければいけないと強く感じました。
――なるほど、先生の気持ちがだんだん理解できるようになってきました。それは素晴らしい着眼点ですね。ところで、日本の大学で栄養学科というのは多いのですか。どのくらいありますか。
田川 おそらく、管理栄養士養成施設が100以上はあると思います。もともと栄養学科は食物栄養科として短大に多くありました。卒業すると栄養士(都道府県知事の免許)という資格が取れるようになっていました。
その後、管理栄養士という資格(1962年)ができ、ここ10年~20年ぐらいの間に、4年生大学の栄養学科が増えました。管理栄養士は医師、看護師と並ぶ国家資格です。最近は、管理栄養士を目指す学生が増えています。西南女学院大学は短大の食物栄養科時代から数えると約40年の歴史があるのですが、4年生大学の栄養学科になってからはまだ11年ぐらいです。
――日本の栄養学科は世界的に見て、どの程度のレベルのものですか。
田川 世界的に見て高いレベルにあると思います。日本の医学部医学科は研究方法や内容、論文や学会発表のやり方が最先端で洗練されていると言われています。その医学科と比べると、栄養学科は研究方法、論文の書き方等にしてもまだ発展途上と言えます。但し、ポテンシャル的にはとても優れたものがあり、優秀な人材が今後はどんどん排出されていくと思います。
<プロフィール>
田川 辰也氏
1989年九州大学医学部卒業、九州大学医学部循環器内科に入局、日本学術振興会特別研究員としてシドニー大学に留学(1997年7月~1999年12月)、北九州市立医療センター循環器科部長を経て2002年琉球大学医学部医学科臨床薬理講座助教授。2006年西南女学院大学保健福祉学部栄養学科教授に就任、現在に至る。
日本循環器学会認定循環器専門医、日本高血圧学会認定高血圧専門医(特別正会員、評議員)他所属学会多数。2000年第5回ファイザー循環器病研究助成「自律神経と高血圧」(優秀賞)、2004年第9回ファイザー循環器病研究助成「自律神経と高血圧」奨励賞他受賞多数。
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