ところで、我が国の周辺では昨年来、中国との関係がこじれている。尖閣諸島をめぐる問題が引き金となり、記念すべき日中国交正常化40周年に暗雲が立ち込めたのは残念であった。日本にとっては最大の貿易相手国である中国。中国にとっても日本との関係は経済、技術の面において欠かせない存在であるはずだ。
40年前には両国の貿易額は10億ドルに過ぎなかった。それが今や3,500億ドルにまで成長している。現在、日本の貿易の占める中国の比率は20%程度だが、2030年には40%を超えるだろう。今でも中国に進出する日系企業は2万2,000社を数え、10万人をはるかに超える日本人が中国で働いている。中国における日本の存在感は他国を圧倒していると言っても過言ではない。
それだけ目立つ存在であるがゆえに、ひとたび緊張関係が高まると非難、攻撃、破壊の対象になりかねない。とはいえ、こうした日本企業には1千万人近くの中国人が働いているのも事実である。彼らの生活は日本に依存している面もあり、また彼らが世界経済に果たす役割を考えれば、日中関係の早期の改善は至上命令と言えるだろう。
中国の軍事的な活動が東アジアから東南アジアに拡大しつつあるため、日本を含む周辺国の間ではさまざまな憶測や不安の声が上がっている。そうした不安を解消する一環として、アメリカはこの地域に対する武器の輸出を急拡大させている。アメリカによるこの地域に対する武器の輸出総額は2011年から2012年にかけては5.4%拡大し、137億ドルに達している。
言い換えれば、アメリカ政府は一方で中国との関係強化を模索しながらも、現実には中国の軍事的脅威を宣伝することで自国の武器輸出を拡大する動きを強化しているのだ。とくに注目すべきは、中国とあらゆる面でライバル関係にあるインドに対するアメリカの武器輸出額が69億ドルと急増していることであろう。
日本に対しても、尖閣諸島をはじめとする周辺海域の警戒監視を目的とする無人偵察機の売り込みに余念がない。危機をビジネスチャンスに変えるという発想は、アメリカが最も得意とするところである。今回紹介した報告書を読むまでもなく、アメリカの情報戦略は多岐にわたっている。
しかし、根底に流れている戦略的発想は「大きなグローバル・トレンドをいかに自国の経済の再生に結びつけるか」という一点に集約されている。そうしたアメリカの真意を読み誤ることなく、我が国は国益をしっかりと守っていく必要がある。2013年はその意味でも新たな環境の下、日本が世界とどのように向き合うのか、しっかりと自分の頭で考え、判断し、行動する年にしなければならない。今回紹介した報告書にあるように、国家に頼る時代は終わりを迎えようとしている。個人とその非公式なネットワークに力と富が集中する時代の幕開けである。
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<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。
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