現在、日本政府は「和食 日本人の伝統的な食文化」をパリのユネスコ本部に世界無形文化遺産として登録申請中である。そして、今年、和食が世界無形文化遺産に認定される日が近づいている。
和食ブームを反映して、世界各国で和食ファンが増加している。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によると、アメリカにある和食の店は、現在1万4129軒で、10年前の倍以上になっている。ヨーロッパでは、フランスに約1,000軒、イギリスには500件以上もある。香港にも多く、鮨屋や居酒屋などが900軒もある。
著者永山久夫氏は1932年生まれの81歳。長寿食研究所所長で西武文理大学客員教授(和食文化史)である。古代から明治時代までの食事復元の第一人者でもある。豊富なウンチクを織り交ぜながらの解説が実に面白い。
本書は、第1章の和食は現代人を元気にするから始まり、和食には「八つのサプライズ」がある、情報化時代にも対応している和食、和食は老いない体を作る、ご飯グルメ民族の奥義、和食を支える発酵ワールド、肉よりも大豆たんぱく質を選んだ和食、日本人の微笑も育てた「ダシの味」、定番和食のセレクト・テンの全9章で構成されている。
日本人は、その食べ物が持つ健康効果を子供たちに分かりやすく伝える手段として比喩を多く使ってきた。一種の食育である。「畑の肉」は大豆(肉に劣らないほどタンパク質を含む)、「海の玄米」はイワシ(イワシは頭から丸ごと食べられ、しかも栄養豊富な点が玄米にそっくり)である。「畑の腹薬」は大根(消化を助け、胃のもたれを解消する)である。大根は「生でよし、すってよし、煮てもよし、干して、漬けても、これまたよしよし」と言われ、昔から台所の千両役者だった。【4章】
日本人ほど器用に、自然界から微生物を取り込んで発酵食品(味噌、みりん、酢、日本酒等)を作って食文化を豊かにし、健康管理(製造過程で用いる"麹"には酵素が100種類以上含まれている)に役立ててきた民族も少ない。特に味噌は「十徳」があると言われ、嫁に行く娘にしっかり味噌汁作りのコツを教えるのは母親の重要な役目だった。【6章】
六世紀に、伝来した仏教の信仰を持った日本人は、慈悲の心から肉食を止め、その肉の代替フードとして大豆のタンパク質を選ぶ。魚介類は食べるが、肉食はしない、この肉食回避は明治時代まで続くが、栄養的にも、味覚的にも全く困らなかった。大豆には、35%ものタンパク質が含まれており(牛肉で18%、豚肉で20%、マグロの赤身で26%)、さらにタンパク質の優劣を決めるプロティン・スコアが100であり完璧なのである。この大豆の加工品は、煮豆、黄粉から始まり、味噌、納豆、豆腐、油揚げ、凍り豆腐(高野豆腐)など多岐に亘る。【7章】
世界で認識されている味は塩味、甘味、酸味、苦味の4つが基本であった。しかし、味の研究が進んで、最近、和食独特の「うま味」(UMAMI)も人間共通味であることが判明、5番目の味となった。【8章】
我々は、「医食同源」というと、その言葉の由来から「中国料理」を連想することが多い。しかし、「和食」は「中国料理」に優るとも劣らないほど「医食同源」である。
今こそ、日本人自身が、老若男女を問わず、「おいしい!美しい!健康にいい!」と3拍子揃った理想食である和食に回帰すべき時である。世界無形文化遺産に登録され、逆輸入され、その偉大さに気づくのではいかにも情けないではないか。
<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。
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