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『アベノミクス』が引き起こす"通貨戦争"の行方
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2013年2月 1日 14:18

ジャーナリスト(元毎日新聞ソウル支局長) 下川 正晴

 『アベノミクス』による円安ウォン高で、韓国政財界から安倍政権の金融政策を怨差する声が起きている。昨年の韓国ウォン高は、対円で20%も上昇し、対ドルの倍以上にもなった。朝鮮日報は、「韓国政府は円安への対応策を直ちに取りまとめよ」と警告している。


<韓国政財界に波紋広がる>
korea.jpg 韓国企画財政部長官は、「アベノミクスの副作用」に言及した。朝鮮日報は「スイス・ダボス会議はアベノミクス糾弾の場になるだろう」と予測したが、逆に日本側は、政府・民間が結束し、安倍首相は招待されていない。韓国の政権交代のはざまで起きた急激な円安ウォン高は、日韓経済の基礎を揺るがし、両国関係にも微妙な変化をもたらしている。

 韓国銀行(中央銀行)が1月21日に発表した2012年の外為市場動向によると、昨年末のドルに対するウォンのレートは1ドル=1,070.6ウォンで、前年末(1,151.8ウォン)より81.2ウォン高くなった。値上がり率は7.6%。一方、ウォン・円相場は100円=1,238.3ウォンで、11年末(1,481.4ウォン)と比較すると243.1ウォンのウォン高で値上がり率は19.6%に達する。日本政府が「無制限の円放出」に乗り出すと、円・ドル相場は1ドル=90円まで円安が進むなど、円の下げが際立った。

 これに対して韓国の最大部数紙・朝鮮日報は、社説で「もし安倍政権が今後も円安政策を続ければ、1年後には韓国経済は計り知れない打撃を受けるだろう」と警告した。韓国企画財政部の朴宰完(パク・ジェワン)長官は23日、安倍政権が掲げる大胆な金融緩和については、副作用をともなうとの見解を示した。日本の金融緩和について尋ねられた朴長官は、「短期的な景気浮揚の一助になるかもしれないが、国債の金利上昇など中長期的なコストを誘発する」と答えた。朴長官が、日本の通貨政策に言及するのは異例だ。

<ウォン高に慌てる韓国>
 ウォン高・円安を受け、韓国の銀行界も対応に乗り出した。日本企業と競合する韓国の輸出企業の採算性が悪化すれば、顧客企業の経営悪化につながりかねないためだ。銀行はウォン・円相場に敏感な企業を対象に為替変動リスク管理サービスを強化する一方、資金支援も拡大している。
 今年に入り、世界的に株価が全般的に上昇しているにもかかわらず、韓国株は下落を余儀なくされている。円安で韓国が最も被害を受けるという見通しが広がり、外国人投資家が韓国株を売っているためだ。
 外国人が韓国を警戒するのは、円安が原因だ。クレディ・スイスは1月16日、円安による最大の被害者として韓国を挙げ、インドネシア、タイは恩恵を受けるとのレポートを発表した。韓国を円安被害国としたのは、韓国と日本が輸出で激しく競合しているためだ。LG経済研究院によると、韓日の輸出上位50品目で重複する品目は昨年時点で52%に達し、10年前の42%に比べ10ポイントも上昇した。

<次期政権の中長期計画が不透明>
 このような状況を受けて朝鮮日報は「ダボス会議、アベノミクス糾弾の場に?」との観測記事を掲載し「金融緩和を通じた円安を目標とする『アベノミクス』が引き起こした"通貨戦争"について、甘利経済再生相は"円安とか円高に誘導するつもりはない"と述べたが、信じる人はほとんどいない」と報道した。
 しかし、ダボス発の時事通信によると、同会議で日本政府は『アベノミクス』の国際公約化を果たすことに成功した。パネル討論では、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事や経済協力開発機構(OECD)のグリア事務総長、カナダ銀行のカーニー総裁らが、アベノミクスへの理解や支持を表明。円安誘導や中央銀行の独立性侵害、財政規律の維持放棄といった批判や懸念は鳴りを潜めたという。

 これには、周到な根回しがあったためらしい。同通信によると、日本の金融緩和を人為的な円安誘導と批判する急先鋒で、今回のダボス会議でも「今の日本をやや懸念している」と述べたドイツのメルケル首相に、安倍首相が直接電話して説得。メルケル氏の懸念払拭に努めた。
 韓国サイドからの「円安非難」に対しては、「韓国の偽善」と指摘する米経済学者もいる。米ハーバード大のニーアル・ファーガソン教授は、27日付フィナンシャル・タイムズへの寄稿で、「日本の差し迫った経済状況を考えれば、国際社会は円安政策をある程度受け入れるべきであり、むしろ過去5年間に実質的な通貨価値が大幅に下落した韓国が日本を非難するのは偽善的だ」と主張した。

 朝鮮日報の李志勲・経済部長は、「アベノミクスと朴槿恵新政権の経済政策」と題したコラムで、「400ページを超えるパク・クネ次期大統領の公約集にはマクロ経済に関する内容がほとんどない。経済成長率や物価といったマクロ指標の目標値は見当たらない」と指摘したうえで、「安倍新政権の経済政策基調である『アベノミクス』でウォンは対円で10%も上昇したが、大統領職引き継ぎ委員会の関心対象ではないようだ」と苦言を呈している。

<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。07年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。


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