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「維新銀行 第三部 クーデター」~第1章 クーデター前夜(23)
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2013年2月 4日 07:00

 谷本は、
「もうここまで来たら、21日の取締役会議で谷野君を罷免するしか方法はないね。先週の1週間、谷野君は何も動きがなかった様に見えたが、その辺は一緒の部屋に居てどうだったかね」
 と、営業本部長の川中の顔を見て訊いた。

 川中は、
「そうなんです。役員室で一緒に執務している梅原取締役や小林取締役、それに木下取締役に、我々4人が谷野頭取に退任の申し出をしたとの話は伝わっていないようでした。私は、『谷野頭取が誰にも相談せずにいるのは、退任する気があるから黙っているのかな』と思った程でした。それで4人が退任を勧めれば、仕方なく受けるのではないかと思っていたのですが、今日の話し合いを通じて、その気が全くないのが良くわかりました。ただ不思議なのは負けるとわかっているのに誰にも話さないのは、傍から見ていても不思議な気がします。それとも梅原取締役たちは知っているが、私が居る手前、黙っているのではないかとも思って密かに様子を窺っていましたが、どうもその気配はなく、役員室内は静かでした」
 と伝えた。

 沢谷は、
「後はもう、計画通りやるしかないと思います。それで私はこの後一人で、栗野会長が入院している厚生会病院に行って、今日谷野頭取と会ったが説得に失敗したことや、今後の対応などについて打ち合わせをしておきます」
 と言うと、谷本は、
「先程、栗野君から『21日の経営会議と取締役会議にはどんなことがあっても出席します』と連絡が受けたが、今日話し合った最終的な内容については詳しく伝えておいてくれないかね」と、
 沢谷に告げた。

 谷本は最後に、
「古谷君を新頭取に指名したのは、『若返り』を前面に掲げるためであり、既にみんなに了解をもらっているが、その後の対応が大変だと思っている。新頭取の古谷君には、谷野頭取と一緒に記者会見をすることになるので、その辺の準備は十分にするようにと伝えている。
 それと谷野君更迭後の役員候補は、北部支店長の蔵本崇君だったね」
 と訊くと、すかさず沢谷は、
「役員就任については、事前に蔵本君の了承を取り付けていますから大丈夫です」
 と答えた。
 谷本は、
「いよいよ残す時間は少なくなった。後は全員が一致結束して行動するしかあるまい。その辺の段取りについては、栗野君とも良く打ち合わせて、失敗しないように万全な体制でやってもらいたい」
 と話したのを機に、全員谷本相談役の自宅を後にした。

 後日、谷本は住んでいるこの社宅の購入を、新頭取に指名した古谷に打診し了承を得たが、維新銀行の管財課は、
「たとえ時価以上の売買であっても、税務当局は利益相反行為と認定し売買そのものを否認すると思います。またM建設も随分無償で手を入れており、もし税務調査で贈与と認定されるようなことにでもなれば、双方に大きな影響が出ることが予想されます」
 と恐る恐る進言。何でも思うように手に入れて来た谷本であったが、それを聞いて社宅購入を断念した。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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