強い日本を取り戻すための課題とは。アメリカや、日本と同じ議院内閣制のイギリスと比較しながら日本の問題点、弱点を考える。東京大学法学部の久保文明教授に聞いた。
<人材流動の受け皿に>
シンクタンクは1970年ごろから政治的に発展しはじめ、保守系の「ヘリテージ財団」、中道リベラル系の「ブルッキングス研究所」、投資家のジョージ・ソロス氏らが出資した「センター・フォー・アメリカン・プログレス」などが世論の信頼を獲得している。統計学、経済学、公共政策学などの博士号を持つハイレベルな人材がたくさんおり、研究員はそれぞれ、医療、安全保障(各研究員がテロ対策、北朝鮮への対策)などの専門を持っている。
「特に野党にとってシンクタンクは有効で、政権から離れても政策形成の専門的能力から切り離されることがない。局長以上は政治任用で大統領が任命するので、選挙に負けた側の多くの人が職探しをしなければならないが、一部の人はシンクタンクが吸収する」とい久保教授。政権が移った際には、職を提供する受け皿となり、次の機会を待つ場ともなる。高級官僚の予備軍的な性格を持つ。高級官僚を務めた人が研究員になったり、逆に質の高い政策を提言した研究員が大統領の政治任用で高級官僚となることもある。1人の優秀な人物が、シンクタンクの研究員、政府、議員、行政機関、企業などを渡り歩き、人脈を生かしながら結果を出す。
その人材が動く構造は天下りと似ているが、閉鎖的で官と業が癒着し、政策のバランスが悪くなることがある「暗」の天下りに対し、政治任用制によるアメリカの人材の流動は、オープンで独立性が保たれており、国益にかなう「明」だ。ここがアメリカの強みになっている。
<政治的「価値観」に立脚する>
政権を取る前に掲げた日本の民主党のマニフェストは、当初から実現するのが怪しいと見られていた。
アメリカでは、現実性のある、つまりは、実現できる可能性の高い政策が構想、立案される。
アメリカの国会議員と、そのスタッフの政策立案能力が高いのもあるが、シンクタンクの存在が、政策の質量の充実に貢献している。シンクタンクは、政治的な「価値観」に立脚し、「こういうアメリカを作りたいんだ」という思想の旗を振り、「価値観」を共有する政治家を、政策面でバックアップする。
シンクタンクが、自前で資金を調達できる理由の一つには、税制もある。アメリカは、寄付を積極的に行なうカルチャーがあり、政治的な思想、価値観に共鳴した人たちからの寄付が集まる。
<プロフィール>
久保 文明 (くぼ ふみあき)
1956年生まれ。政治学者。東京大学法学部外業後、1993年より慶応義塾大学法学部教授を経て、2003年より東京大学大学院法学政治学研究科教授。アメリカ政治に詳しく、アメリカ学会副会長、東京財団上席研究員などを兼任する。著書に「現代アメリカ政治と公共利益―環境保護をめぐる政治過程」(東京大学出版会)、「アメリカ政治を支えるもの―政治的インフラストラクチャーの研究」(国際問題研究所)など。
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