強い日本を取り戻すための課題とは。アメリカや、日本と同じ議院内閣制のイギリスと比較しながら日本の問題点、弱点を考える。東京大学法学部の久保文明教授に聞いた。
<今こそ強いリーダーが必要>
ここ7年の日本で、長期的な戦略を実行する強いリーダーが出てこなかったのが、イギリスやアメリカとの違い。議院内閣制のイギリスと比較すると、戦後、政治的リーダーが、トップの座に就いていた年数の平均は、イギリスで約5年。日本は、約2年と短い。長期安定政権を目指す安倍政権だが、アベノミクスにおいて半年後の参院選を見据え、短期で、結果を出そうとしている。手早く結果を出さないと国民の支持を得られない、と自民党は見ている。そのことは、経済的にも、政治的にも、短期でしか見ることができないという悪癖につながる。
「党内で総裁を決める選挙を2、3年ごとに行なったりしている。国民の投票できないところで、首相が替わることがあるということ。自民党と民主党が与党の時にも行なっていた2年ごとの総裁選と代表選は、ナンセンスだと思う。国民の思惑とは食い違うこともある。みんなで仲良く首相を分け合おうというのはもう許されない」。(久保教授)
戦略性を欠いたことが、このところの政治を低迷させた。国民の思考のベクトルを少し変え、長期的な思考に変えるべきなのではないか。芽を育てていくことを、政党だけでなく、国民も考えていくべきだろう。
<民意を磨く>
昨年12月の衆院選では、国の行く末を決める重要な局面での選挙であったにもかかわらず、投票率は59・32%と戦後最低にとどまった。「よりいい政治を求めているのは、都市部のそこそこ学歴の高い有権者ですが、実際には、日本では『投票してもどうせ変わらない』という思いがあるのか、あるいは政治組織や政治家の後援会に組織されていないためか、投票にいかないことが多い。これはアメリカではやや事情が異なり、収入が低い黒人やヒスパニック系の人はあまり選挙にいかない傾向にある。これを参加のパラドックスという」と久保教授。国民が政治に関心が薄いことも日本政治の弱点と言えるだろう。
民意も成長しなければならない。国民が短期での結果を求めてきたから、政治家が参院選までに短期で結果を出そうとしている。これでは、日本の政治は、戦略を立て、じっくりと遂行することができず、長期的ビジョンなしのまま。国際競争力も失われてしまう。長期的に政策を見る目を国民が養わなければならない。強いニッポンを作るためには、国民の声がもっと政治に届くよう民意を磨いていかなければならない。
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<プロフィール>
久保 文明 (くぼ ふみあき)
1956年生まれ。政治学者。東京大学法学部外業後、1993年より慶応義塾大学法学部教授を経て、2003年より東京大学大学院法学政治学研究科教授。アメリカ政治に詳しく、アメリカ学会副会長、東京財団上席研究員などを兼任する。著書に「現代アメリカ政治と公共利益―環境保護をめぐる政治過程」(東京大学出版会)、「アメリカ政治を支えるもの―政治的インフラストラクチャーの研究」(国際問題研究所)など。
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