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「維新銀行 第三部 クーデター」~第1章 クーデター前夜(28)
経済小説
2013年2月12日 07:00

 大沢は、
「いずれにせよ、古谷君はやることに緻密さがないし、どうも思慮深いところがないような感じがする。なぜ彼が50才の若さで取締役に抜擢されたのか僕には良くわからなかったが、谷本相談役の同窓で、かつ第五生命の山上外務員の保険勧誘に積極的に協力したから谷本頭取に認められ取締役になった。そして今度は頭取候補になったのであれば、維新銀行の頭取として相応しいかどうかは疑問だと思う。

 維新銀行の頭取ともなれば、それなりの気品や教養、それに奥ゆかしさを備えてなければいけないと思うし、また地方銀行のトップとして、地域経済に対するしっかりした考え方やスタンスなど、銀行のマネージメント以外のあらゆるものに対して、それなりの卓越した見識を持っていないと勤まらないと思う。今から一生懸命帝王学を積んだ上で頭取になるのであれば、周囲も認めることになるかもしれないが、今の彼には維新銀行の頭取としての器は備わっていないし、僕は時期尚早と思う」
 と、古谷に対する自分の考えを述べたが、急に、
「そうそう、その前にそうならない様に、どうしたら良いかを考えないといけなかった。問題は古谷君が新頭取に相応しいかどうかではなくて、沢谷君達の『頭取交代』要求をいかに阻止するかだね。時間が限られているが、やれるだけのことは手を尽くして努力してみようと思っている。それで早速今日、川中君とは話をしてみようと思って役員室に行ったら、急遽吉沢常務から呼び出しを受けて西京支店に行って不在だった。どうも僕の考えでは2人が示し合わせて、誰にも会わない様にしたと思っている。恐らく土曜日の話し合いが決裂したため、谷野頭取が本店の親しい役員にその話をするのではないかと思い、出張と称して西京支店に逃げたと僕は思っている。

 言い分があれば正々堂々と受け答えすれば良いのに、どうも彼らのやることは姑息だね。いずれにせよ、明日の朝、川中常務、そして午後3時に沢谷専務に会って、組織的に頭取交代を求める行為をしない様に説得するつもりでいる。

 要は明日の沢谷専務との話し合い次第になるが、もし僕が説得してもどうしても応じないのであれば、こんな事態になっていることを知らない本店の役員には、谷野頭取から是非話しておいてもらいたい。そうしないと、いきなり経営会議や取締役会議で頭取再任に対する反対の動議が出る様なことになるとそれこそ大変なことになる」
と言いだした。
 谷野は、
「そうします」
 と答えるのが精一杯であった。

 大沢は、
「実は明後日の水曜日、僕と下田君は、東京支店で開催される監査役会議に出席することにしている。非常勤監査役の木村明和生命社長に出席してもらい、監査証明書のサインをもらうようになっている。会議は11時からで、終わり次第昼食会を予定している。恐らく12時半には終わるだろうと思って、羽田発2時15分の福岡着の飛行機に日程を変更した。本店には午後6時過ぎには戻って来るので、その後の経緯を聞かせてほしい」
と言って、頭取室を出ていった。
 非常勤監査役の木村賢一郎明和生命社長は、5月に開催される維新銀行の臨時決算取締役会議には毎年出席していたが、何故か、「谷野頭取交代劇」が繰り広げられることになる今年5月21日(金)の取締役会議には、欠席の通知を出していた。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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