良質で安全な食材を生産供給することを理念に掲げ、海外にも通用する食のブランド「あんず」を築き上げたアトム(株)。代表取締役の花田利喜氏は、豊富な海外経験を持ち、そこから培った確かな情報と技術を元に、食料卸からレストラン経営、野菜栽培など、食に基づく様々な分野で成功を収めている。今年は、本社近くに移転する「お肉の工場直売所」にパン工房を併設する予定もある。そんな花田代表が事業計画のなかで、着々と進めているのが、福岡で直営店を中心とした工房公園を造ることだ。すでに土地開発や契約関係などの準備は進んでおり、今年2013年はいよいよ着工予定だ。
<新鮮なキャベツを切ったことがありますか>
(株)アトムの直営レストランでは、自社で作った野菜を使っている。理由は、鮮度がまるで違うからだ。「朝、キャベツを収穫する、まさにその時の音を聞いたことはありますか。包丁で茎を切って収穫します。バリバリと、はじけるような音がしますよ。そして収穫した新鮮なキャベツをざくざくとスライスして食べる。最高です。自分は農家の長男ですから、小さな頃から、そういうキャベツしか知りません」と、花田代表。だからこそ、本当に美味しいものを提供するタイミングが良くわかっている、と自信を持って言える、という。
同社では、社員はもちろん、レストランで雇うアルバイトにも、1度は自社農園で未収穫の野菜の茎に包丁を入れ、収穫するときの感触を体験してもらっている。スーパーに並んでいるものとはまるで違う、生きた野菜のみずみずしさ。鮮度を可能な限り保ったままお客様にお届けする喜び。その感動を知ったアルバイトたちがメッセンジャーとなって、店頭で、同社が求める本物の味とはどういうものかを広めてくれる。
良さがわかれば、それを求めるようになり、人にも伝えたくなる。そう考えると、良い食体験をすることは、とても大切だ。特に小さい頃からが良い。食は人間が生きる源である。野菜とはどうやって栽培、収穫されるものなのか。どういう点に気をつければ、より良い形で口にすることができるのか。そして、本当に美味しい味とは、どういう味なのか。このような、食に関する楽しさを、味覚だけでなく、視覚、触覚、聴覚、嗅覚を使って味わうことができる場が身近にあれば、その後の食生活がどれだけ豊かなものになることだろう。
<緑豊かな九州国立博物館側に着工予定>
今年、同社は福岡県筑紫野市に、食工房公園の造園に着工する。九州国立博物館のすぐ近くなので、観光客の集客も望めるだろう。しかし、公園造りの目的は、食を通じた地域のコミュニティづくりにある。この工房公園では、食を介したコミュニティの場として地域住民にも園内のイベントづくりに参加してもらう計画だ。「地元のおばあちゃんに手作りのおはぎを作ってもらったり、パン工房をつくったりして、子どもたちの食育体験の場にしようと思っています」と、花田代表。
この話題に入る少し前まで、花田代表は経営について話をしていた。メインの業種を問われ、「我が社の主幹は流通業」と言い切った後、すぐに「ああ、でも農業は...」と話題を切り替え、農業へのこだわりを見せた。「今、興味があるのは、ヨーロッパの農業技術。デンマークやオランダの農業技術は、日本と同じ経費で、まったくレベルが違う生産量を上げることができます。視察してみたいですねぇ」と言葉を躍らせ、ひとしきり、海外の大型農場経営について話に花を咲かせた後、「でも、結局、彼らの技術は農業とは違いますね」と真顔になった。「違いますか」と問い返すと、「違いますね」と即答する。そして、「あれは農業ではなく、工業かな?という感じです。彼らの技術をちゃんと勉強したいとは思うが、品質の面はどうなんだろうと思います。我が社が求めるものは、効率化ではなく、本物の味です。そこはちゃんと確認しておかないと」と語った。
そしておもむろに語ってくれたのが、先に述べた「早朝の畑でキャベツの茎に包丁を入れるときの感覚」だ。一瞬、経営について語るときとは違った笑みが、花田代表の顔をほころばせた。それは、万国共通の「本物の味」を知っているからこそ生まれる笑みのように思えた。
直営レストランには、遠方から足を運んでくれる客も多い。お得意様になっている地元タレントもいるという。ホークスの選手も大切なお客様だ。3月には、長寿世界一の徳之島で、体のこと、食事のことを学ぶダイエットモニターイベントにも関わるという。客に喜んでもらうために、提供する食材はすべて最高の質のものを、と決めてきた。そのビジネスモデルを突き詰めていけば、本当に身体に良いもの、に行き着くことは自然の成り行きでもあろう。筑紫野市の工房公園も、これからの、地域に根ざした健やかな食生活のあり方をリードするものになるのではないかと、期待の目が集まっている。
<COMPANY INFORMATION>
代 表:花田 利喜
所在地:福岡市東区松島5-17-25
設 立:1985年10月
資本金:6,300万円
事業内容:食肉加工卸・食肉の輸入輸出、小売業・外食店鋪運営・食品機械製造販売ほか
TEL:092-622-9144
URL:http://www.e-atm.co.jp/
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