木下取締役は、
「私は谷野頭取を支える立場にいますが、谷野頭取の今までの経営姿勢に何ら問題はないと思います。栗野会長が病気になった分まで引き受けられており、大変な激務をこなしておられます。従って、今後たとえどうなろうとも谷野頭取を支えて行くことに変わりはありません」
と、きっぱりと明言した。
梅原取締役も、
「私も谷野頭取を支える立場にいささかも変わりはありません。たとえ数で負ける様なことになっても、維新銀行の取締役としての矜持を大切にしたいと思います」
と言うと、
小林取締役も、
「経営管理担当役員として、もう少し目配りしていればこんなことにならなかったのではないかと反省しています。この様なことになって、谷野頭取には本当に申し訳ない気持ちで一杯です。先程、梅原取締役や木下取締役が申されたように、たとえどんなことになっても谷野頭取を支えていきます」
と、谷野の心を抉るようにそれぞれが自分の思いを伝えた。
それを聞いた大沢監査役は、
「私は監査役のため議決権はないが、監査役の立場から沢谷君達による谷野頭取交代の要求が、如何に卑劣なものであるかを経営会議と取締役会議に出席して説得するつもりですが、この『谷野頭取交代要求』について北九州本部長の石野専務と常盤支店長の堀部取締役に知らせるべきかどうかですが、どうしたら良いですかね」
と、一人一人の顔を見ながら意見を求めて来た。
谷野が、
「こんなことになって皆さんに大変迷惑をかけて済みません。今後も支えて頂けるとの言葉を頂き本当に感謝しています。今大沢監査役から話しがありました様に、石野専務と堀部取締役に伝えるべきかどうかですが、私とすれば石野専務は午前中の経営会議のメンバーであり、知らせておくべきではないかと思います。
ただ堀部取締役は経営会議のメンバーではなく、ほぼ態勢が決まった午後からの取締役会議のメンバーですから、知らせない方が良いのではと思っています。彼は私が頭取に就任すると、地区の取引先に呼び掛け盛大な披露パーティを開催してくれましたし、その後も交流会を実施してくれたのは堀部取締役だけですし、彼の好意には感謝しています。それだけに僕としては知らせない方が彼のためには良いのではと思っています。むしろ彼がどちらに手を上げるかによって、頭取交代の正当性が問われる様な気がするのです」
と言った。
木下は、
「谷野頭取が明日、直接石原専務にお伝えした方が良いと思います。それと堀部取締役は知らせなくても、見た目とは違い咄嗟に正否を判断する直観力を持っており、曲がったことは嫌うタイプですから問題はないと思います。しかし堀部取締役に比べて、福岡支店長の原口取締役は何ですか。谷野頭取が推薦して取締役になったのですよ。それなのに谷野頭取に弓を引くなんて最低の人間ではないですか。私は明日原口取締役に会って、人の道に外れる行為であり考え直せと説得をするつもりです」
と、原口の節度のなさに不快感を顕わにした。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
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